「小雨日記」 小泉今日子
同居猫・小雨が綴る
キョーコさんとの
ふたり暮らし
オケイコ
キョーコが一人でブツブツ喋っている。この家には小雨と
キョーコしかいないのに、まるで誰かと話をしているかの
ように、時に笑いながら、時に怒りながら、さっきなんか泣き
ながら喋っていた。なんだか怖いよぅ、キョーコさん。
本当は誰かがちゃんと存在していて、それが小雨には見えない
だけなのかしら? それともキョーコさん、寂しさのあまり
妄想を抱いているのかしら?
あっ、電話が鳴った。受話器の向こうにはいつものマサト
さん。「えっ? 今? セリフの練習してたよ。もうお稽古
始まっちゃったからさぁ」。なぁんだぁ、舞台のお芝居のセリフを
ブツブツ喋ってたのかぁ。練習を始めるなら始めるで一言ちゃんと
小雨に断ってからやってくれないかなぁ、と思う。そしたら
小雨だっていらぬ心配することもないじゃないねぇ。
舞台に立っているキョーコさんってどんな感じなのかしら?
ちゃんと間違えないで演技できるのかな?小雨も一度
見てみたいけど、見ている方が緊張して心臓がドキドキしちゃう
気がする。だって、普段のキョーコさんって、超ど級のおっちょこ
ちょいなんだもん・・・。
備考:この内容は、2011-5-7発行、角川マーケティング 小泉今日子著「小雨日記」
より紹介しました。