第3幕
「高坂鉄之進の屋敷の中」
平時親分> 高坂の旦那、連れてまいりやした。
こちらが、信吉のおばあさんじゃないかと、孫を探している人です。
高坂鉄乃進> おぉ、ご苦労であった。
これ、おばあさん、大儀であったのぉ。
織江、これへ、信吉を連れて参れ。
織江> 分かりました。旦那様。
信吉> あっ! おばあちゃんだ。
うぇ~ん、おばあちゃ~ん。寂しかったよぅ~。(泣)
おばあちゃん> これ、信吉!お前という子は・・・
五平と一平> よかったな、信吉!
高坂鉄乃進> これ、おばあさん、何か事情があるように、
お見受けするが、よかったら、話してくださらぬか?
おばあさん> はい、私は、熊本は肥後の国から来たんだども・・・
私にも、遅まきながら、生まれた娘が一人おりましてのぉ・・・
貧乏農家ながらも、手塩にかけて育てましたのじゃ・・・
それが、15ぐらいの年になった頃、
何か、この子にも習い事を覚えさせたらどうかということで、
お武家様の屋敷へ、女中奉公に上げさせたのですじゃ・・・
初めのうちは、1ヶ月に一度は、連絡も来よったですし、
3ヶ月に一度の、家に帰るのもしとったですじゃが・・・
そのうち、仕事が忙しいのか、2年以上も何の連絡も来んようになりましてのぉ・・・
そうこう、しているうちに18になって、突然帰ってきた時に、
村の庄屋の、若旦那に見初められましてのぉ・・・
初めのうちは、そんな、相手はお金持ち、うちは貧乏という
身分が違いすぎるから、やめとけと、断わるつもりだったですがのぉ・・・
周りの人たちは、そんな、断ることはもったいないと、言うことになりましてのぉ・・・
それからは、話がトントン拍子に進みましてのぉ・・・
いよいよ祝言も終わり、床入れという時に、
新郎の部屋から「ギャーッ!」という声がして、
新郎の庄屋の若旦那が○んでしまったのですわ。
娘に聞いても、「わたしがやった」しか言わんでのぉ・・・
村の人たちからは、「人○し!」呼ばわりばかりされましてのぉ・・・
亭主は、それに耐え切れなくなって、2ヵ月後に首を○って亡くなりましてのぉ・・・
私もすぐに、あとを追ってと思いましたが、それでは娘一人、
生きていけなくなると踏みとどまりましてのぉ・・・
そうこう、するうちに半年後に、番屋から男の赤ちゃんを連れて来られ、
「これ、あんたの孫やさかい、おばあちゃんが育てるように」と、言われてのぉ・・・
結局、娘は奉公していたところのお侍さんの子を宿して、
その操を立てるために、若旦那を○してしまった。
また、娘がお腹大きいことに、気づかんかった私もバカだったんですじゃのぉ・・・
それで、4年間三宅島の方へ娘は島送りで行っていたんですじゃが、
務めが終わり、
最近、江戸で娘のことを見た、という噂を聞きましてのぉ・・・
私は、居ても縦もたまらず、田畑を庄屋さんに売って、
孫を連れて江戸に、出てきましたのですじゃ、
ところが、すぐに、バンっと、ぶつかってきた男に
財布をスラれてもうてのぉ、一文無し・・・
これからどうやっていこうか、明神様にお参りしている間に、この信吉が、
いなくなって、迷子になり申したのじゃ・・・
高坂鉄乃進> おぉ、そうか、そうか、よく話してくれたのぉ、
でも、安心なされよ、この高坂鉄之進に任せなさい。
その、娘さんとやらを、私の方で探してあげましょう。
なに、その間は、当屋敷で、この信坊同様に、自分の
我が家だと思って暮らすが良い。
幸い、私には、先ほどのような親分もいる、
他にも探してくれる友人、知人が大勢いるからのぉ・・・
さ、さ、奥に入ってゆっくりくつろがれよ。
これ、一平、五平、
おばあさんを、奥に案内して、差し上げなさい。
(一同、舞台右へ下がる)
(舞台左から、渡世人・勝が登場する)
勝> ちょいと、ごめんなさいよ。
高坂鉄乃進> 何かな?
勝> こちらを高坂鉄乃進様のお屋敷と拝見いたしましたが?
高坂鉄乃進> いかにも、その、高坂鉄乃進なるものが、手前じゃが・・・。
勝> あなた様に、是非、会わせたい女を連れてまいりやした。
高坂鉄乃進> なに!?
勝> さあ、こっちですぜ!
(舞台左から、渡世人の女・おゆうが登場する)
おゆう> 肥後の国・熊本で、女中奉公していた時から早7年、
流れ流れて江戸の町、
こんな形で会おうとは、高坂の旦那、
私のことを忘れたとは言わせないよ!
高坂鉄之進> おゆうか!?
つづきは、劇場でお楽しみください
おわり