悪天候下のラウンドでは、自然との”折り合い”を意識せよ
ボールを打っては歩き、
考え、悩み、決断し、そして
また打って歩く・・・。
ゴルフを煎じ詰めると、
そんな単純作業のくりかえし
と言うことになる。だが、
おれはこのゲームが楽しく
てしょうがない。
50年以上もゴルフとともに
生活しているのに、これまで
一度も「つまらない」と
感じたことがないのだ。
いや、むしろ、昔より69歳
になった今の方が「上達
したい」と言う気持ちは
大きいかもしれない。
スコアがよかろうが悪か
ろうが、常にその先にある
何かを求めて課題を探って
挑戦したくなる。要は、
ゴルフに対する向上心が全く
消えないわけよ。
それもこれも、きっと
ゴルフが自然の中で行われる
スポーツだからだと思う。
芝を読み、風を読み、
いろんな要素を考慮してボールを
打ってしまえばその
先は何が起こるかわから
ない。予測がつかないから
こそ楽しいし、何より自然に
対してプレーヤーたる人間
が立ち向かっていくところ
に面白さがある。

大げさかもしれないけど、
登山家が山に挑戦するのと
同じでゴルフも体力と技術
と精神力を持って自然に立ち
向かっている。もちろん、
人間は到底、自然に叶う
はずもない。でも、プレーし
ていると、その自然と折り合い
がつく場面が出てくる。
たとえば、いつもティショット
にドライバーを使って
いるホールでその時の風や
気温、フェアウェイの状態
(地面の硬さや芝の長さ)
などを考えて3番ウッドに
持ち替えたり、アイアンを
使ったりする場面がある。
プレーヤーは、その場の
状況に応じて最善の選択を
するわけだが、これがピッタリ
予想と一致したとき、自然
に対して折り合いがついたと
感じられる。これもゴルフ
の醍醐味の一つだと思う。
だから、状況に応じた
ショットの技術を身に付けて
いないと、いつまでたっても
その醍醐味は味わえない。
それこそプロゴルファーの
場合、自然との折り合いが
付かない選手は悪天候だと
結果を残すことができない。
雨が降った時の技術、
風が強いときの技術、それら
すべてをコントロールできる
プレーヤーだけが、どんな
状況下でも結果を残せる
のだ。つまり、どんなに悪い
コースコンディションでも
しっかりスコアを出せる
技術がないと、一流とは言え
ないわけ。
自分で言うのも何だけ
ど、おれは天気が悪くなれ
ばなるほどワクワクして
くるタイプである。風もない
ようなピーカンな天気で
プレーしてるとどうしても
ゴルフが淡泊になるけど、
悪天候だといろんな技術を
使って攻められるからだ。
プロとしての務め
昔から、雨が降ったら
「これで俺のものだ!」って
思ってた。他の選手が
スコアを伸ばせないなら、
逆にチャンスだと切り替えて、
ひたすら自然と折り合いを
つけるゴルフに徹した。
おれはそうやっていろんな技術
を自然から教わってきた。
先日開催された「フジサンケイ
クラシック」(9月1~4日)は、
大型の台風12号
の影響でコンディション
不良のため初日のプレーが
キャンセルとなった。主催
者側も、何とかトーナメント
が成立する36ホールを
消化させようと翌日から
プレーをスタートしたが、中断
や順延が続いたらしい。
こういう状況はプレーしている
選手にはツライ。土砂
降りの中でプレーして途中
で中断、そして何時間か
待たされた後に再スタート
するわけだからね。いつもの
何倍も疲れるし、ケガをする
可能性だってある。
とはいえ、いくら天候が
悪くても選手はその環境を
受け入れなければいけない。
何とか試合を成立させようと
努力する人も大勢いるし、
少しでもギャラリーがいる
なら、最後までプレーする
こともプロとしての務め
だからだ。
それが、今回はなんと12人
もの選手が途中棄権したと
聞いた。そりゃあ、選手に
はそれぞれ理由があったろう
から追及はしない。でも
気になるのは、プレー
出来ないほどの体調不良を訴えて、
棄権したにもかかわらず、
その殆どの選手が翌週
の試合にはしっかり出場
していたことだ。
体調が理由と言えばそれまで
だけど、これではあまりにも
プロ意識が無さすぎる。
おれも試合を棄権したことは
あるけど、それは我慢に我慢を
重ねた結果の判断だった。
プロゴルファーは個人事業主
だから、「やめる」
「やめない」の判断は自分で
決めてよい。だが、途中棄権
すると判断したくらい体調
がすぐれないのなら、その
わずか数日後に行われる試合に
は出られないのではないか?
とも思ってしまう。
この試合で3連覇が
掛かっていた石川遼選手は、
ラウンド後にこうコメント
していた。
「どんな環境でも条件は
一緒。いかに集中力を維持するか
が大切だし、なかなか
経験できる環境じゃない分、
貴重な勉強をさせてもらい
ました」
プロならどんなに悪い
コンディションでもそれを
言い訳にしてはならないし、
それを言葉にしたらほかの
選手に対して自分の弱みを
見せているのと同じ。
つまり、天候が悪ければ
悪いなりに”自然に対して
折り合いをつけてプレー
するのもプロの技量”なのだ。
備考:この内容は、週刊新潮 10月6日号(\324+税)より紹介しました。