開放区 2
プロローグ
「元気だった?」
VOL.2 やさしさの意味 September.2003
「私を一番愛してくれる人」・・・理想の恋人をそう表現する女性たち。
なんか要求ばっかりしているみたいで、「てめー、ふざけんなよ。この
コメントよ!」って思うこともあるけど、案外正直なところなのかも
知れないとも思う。
これってじつは、みんなが思っていることなんだよね。口に出さない
だけで男だって同じ。報われなくちゃつらいし、人は誰でも好きな人には
愛されたい・・・。
誰かを好きになって「この気持ち、どうにかして伝えたいんだけれど、
どうすればいいんだろう?」って考えて行動することからすべてが始まる。
そんな、相手を大切に想う気持ちがやさしさにつながるのかもしれない。
形は人それぞれでもね。発信の仕方はその人の個性だし、受け取る人が
いて、初めて成立するもの。関係性の形だけ、やさしさの種類もあるんだ
よね。お互いの関係さえしっかりしていれば、厳しくすることがやさしさに
なるかもしれないし・・・。
だから絶対的に優しい人なんていないと思う。神様じゃないんだから。
「あの人は優しいよね」って性格や人柄を表現するのもおかしいんじゃ
ないかな。それは”便利な人”って言いかえた方がいいような気がする。
自分にとってカンタンでラクな人。英語で言えば”easy”に近いと
いうか俺”easy”って言葉好きじゃないし、そうなっちゃうと、
限りなく利害関係に結びついていくような感じがする。それは男も女も
変わらないと思うよ。
ただ、女性の場合は、子供を生み出す性だからね。そこにはすごい
やさしさが本能的にあるんだと思う。男としては感じ取れない部分もあるし、
本当にリスペクトするしかないけどね。
最近、自分の中で「ん?」ってちょっとひっかかること。それは、
「~してあげる」って表現。映画とかドラマを見てても、結構普通に
この言葉出てくる。でも、たとえば「ちょっと待って、俺、取って
来てあげるから」って言うのと、「ちょっと待ってて。俺、取ってくるから」
って言うのとでは、すごく違わない? 好みの問題かもしれないけど、俺、
屈折してるのかな?人に対して「その表現はよくないでしょ!」って言う
ことでもないっていうのはわかっているんだけど、たとえば「あれ、
片づけといてあげたよ!」って言うのも絶対にいや。だって言わなくても見れば
わかる。好きでやっているわけだし。それに対して「ごめんね」って
言われたりすると、「あ、いえいえ」なんてなっちゃって、なんかちょっと悪い
ことしたような気になるんだよね。「サンキュ!」くらいで全然OK
なんだけど・・・。
できればいつも「~したいからする」自分でいたいと思う。自分が
接する人たちもそうあってほしいね。自分の欲求がやさしさの動機である
のが理想。自発的でありたいから、考えてみたら俺、何か自分のしたことで、
感謝されるより、まずはびっくりされたほうがうれしい。「えっ!?」って
リアクションを求めちゃうから、それこそ誕生日とかクリスマスに
プレゼントをあげるのもすげー嫌なの。「記念日だから」って適当なものを
見つくろうのが好きじゃない。義務的だし、ウキウキしないから。それより、
なんでもないときに、「買い物に行ったら、お前っぽい、こういうのがあった
から、ハイ」って手渡す方が楽しい。
人との付き合いに、マニュアルはあってもいいけど、その通りに
物事は動かないでしょ。誰かにやさしくしたくなった時、そこには
”きっかけ”も”マニュアル”もいらないよってことなんだ。 俺の中では…。
つづく
このお話は、集英社 2011年9月30日発行
木村拓哉著 開放区2 (1900円+税)より紹介しました。