デュオ 2 | Q太郎のブログ

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パクリもあるけど、多岐にわたって、いい情報もあるので、ぜひ読んでね♥
さかのぼっても読んでみてね♥♥

 

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俺は江里子さんとデュオを組むことに決まった。理由は、単純に江里子さんの歌に感動したコブクロ


からだ。まあ、これは本人には恥ずかしくて言えないけど。


 江里子さんは、メインボーカルを希望していたが、俺だって歌いたい。口論の末、江里子さんは


しぶしぶ「じゃあ、曲によって変えるってことで」と了承した。江里子さんは最近始めた


ギターより、昔からやってるキーボードのほうが得意らしい。ボーカル2名、ギター、キーボード、キーボード


という不思議なデュオとなった。一人が歌っている時、もう一人はコーラスに回った。

 

 最初は有名なアーティストの曲を練習した。コピー曲を何曲かと、江里子さんのオリジナル


曲「あなたへ」を二人で演奏できるようになると、路上で発表してみようと、早速駅前に電車


向かい準備をした。


 二人でするライブは、信じられないくらいお客さんが集まった。腕はまだまだだったけど、


楽器をスピーカにつなぎ、マイクを使って歌ったのが、迫力があってよかったのかもしれない。


それに江里子さんは曲紹介のMCが上手で、一曲終わってもその場にいつづけてくれる

 

お客さんが多かった。気づくと20人ぐらいの人が立ち止って聞いてくれた。キトリ


 最期の曲はオリジナルソング「あなたへ」。江里子さんはたっぷりの気持ちを込めて、この

 

曲を歌った。観客にも、その気持ちが伝わるんだろう。みんなじっと歌声に耳を傾けていた。


中には目じりをぬぐう人もいた。


 俺はギターを弾きながら、江里子さんをうらやましいと思った。


 俺も自分のメッセージを発信したい。こんな風に思ったのは初めてだった。メッセージ





 


「自分の思ってることを、歌に乗せる、それだけね!」


 打ち上げで、ほろ酔いになった江里子さんはそう言った。作詞と作曲についてもっと具体的ビール


な方法を聞きたかったのに、江里子さんはちゃんと答えてくれない。「好きな女の子のことでも

 

書いたらどうだい?」と店主のおっさん。練習後に毎回訪れるこの店もだいぶなじんできた。花


 歌に乗せるメッセージというのは難しい。俺には江里子さんみたいに思う相手がいない。


相変わらず学校にも行かず、のうのうと過ごしてるので、いいアイディアも思い浮かばない。ひらめき電球


「そのうち、歌いたいことが見つかるって。歌詞ができたら私が曲つけてあげてもいいし」


 江里子さんは枝豆を食べていた手を、おしぼりで拭き、カバンをごそごそし始めた。「それよりJ


もさー。相談なんだけど」またクリーニングのチラシが出てくるのかと思ったが、今回は


違った。


「ね、今度ライブハウスで歌ってみない?」ライブ


 受け取ったビラには「ライブ出演者募集」と書いてあった。江里子さんの知り合いのライブ

 

ハウスで、アコースティック・ライブがあるらしい。答えはもちろん、YESだ。室内で演奏


するのは初めての経験。本格的に動き出した感じもして、俺はがらになくワクワクした。ラブラブ


 



 

 音楽療法って言葉があるけど、それはほんとに効果があるものだと、最近つくづく思う。音譜


 実は、江里子さんとデュオを組んでから、すごく気分のいい日が続いてる。ストリートライブ


も、毎回お客さんが集まって、達成感と充実感で終える日が多かった。花

 

 その日の朝はびっくりするほど、すがすがしい気分で”今日なら学校に行けるかも”と


思った。この”行けるかも”というモチベーションが、いつもがレベル”一”なら、今日はレベルアップ


”十”位だ。自分で言うのもなんだけど、学校生活を始めるいいチャンスだと思い、


急いで準備をした。花


 靴紐を結ぶ俺を、母さんが半分うれしそうに見守っている。そんな痛いくつ。


視線もあってか、何とか呪われた玄関はクリアできた。


 しかし一歩外に出ると、朝のまぶしい日差しが、俺の心を曇らす。いつものように通学する太陽


近所の学生たちの姿が見える。不安が積もってくる。クラスメイトに何か言われたらどうしよう。

 

授業についていけるかな・・・?”十”あった気持ちが”五”位まで減った。花

 

「駅まで送っていくよ」


「いいよ、小学生じゃないんだから」と断ったが、母さんは勝手についてきた。女の子4


 結局一緒に電車にまで乗り込んできた母さんは、学校の最寄りの駅までついてきた。「いってら


っしゃい」改札で母さんが手を振っている。大声出さないでくれよ。恥ずかしいって。他人の

 

フリして早足で歩いた。・・・でもま、母さんがいたから逃げ出さずに学校まで来れた。結果


オーライとするか。母





 


 何気ない感じを装いながら教室に入ると、クラスメイトが一斉に俺のほうを見た。まあ、


これは予想していたことだ。俺は無言で席に着く。何かヒソヒソ話をしている奴もいたが、花


それも最初のうちだけだと思い我慢した。


 気付いたら肩に力が入っていたので、リラックス、リラックスと自分に暗示をかける。ラブラブ


ホームルームが始まるまで俺は自分の音楽のことを考えた。今度のライブの曲順はどうしよう、やっぱ


オリジナル作りたいな。音楽のことを考えてるとすごく気もちが楽だった。ハイビスカス


 ホームルームが始まると、担任が俺を見てニコッと笑いかけた。母さんが学校に連絡したん


だろうな。とうっすら思った。


 朝の連絡事項の最後に、一人の女子が立ち上がって言った。妹し


「今日放課後、文化祭の衣装班は、残ってください」


 ・・・文化祭。もうすぐ文化祭があるのか、知らなかった。うちのクラスは何やるんだろう。合格


教室中が文化祭に向けて活気づいている気がした。蚊帳の外の俺は、意心地が悪かった


 こういうイベント事は結構好きなほうで、中学のころはクラスをまとめたりしていた。舞台発表、花


クラスごとの出店・・・中学の時から高校の文化祭にはあこがれがあった。でももうそれは、俺を


抜きにして始まっている。準備は進められている。なんだか胸の当たりがぐっと痛くなった。クラッカー







 


 1時間目の授業は英語だった。授業が始まると当たり前のように、テストの問題用紙が配られた。

 

どうやらこの単語テストは毎回恒例のものらしい。20問の問題、全部に目を通したが、花


答えられるものは何もなかった。教室全体に、ペンを走らせる音が響く。その音がすごく


怖かった。見たこともないような英単語を見ていると、頭がくらくらした。叫び


 もちろん、授業には全くついていくことができない。理解できなくても授業はどんどん進む。


周りの生徒たちが必死にノートをとっている。俺はノートをまともにとることもできなかった。花


先生がお決まりのようなギャグで生徒の笑いを取っていたが、そのギャグの意味も分からない。


クラスから一人取り残された気分だった。おかあさん


 1時間目の授業が終わると、俺は荷物をまとめ静かに教室を出た。もうその場にいることが


出来なかった。焦りと恐怖で俺の頭はいっぱいだった。桜

 

 校門を出るとやっと緊張から解かれたが、その代わりに悔しい思いが込み上げてくる。

 

・・・ああ、やっぱり、やっぱり駄目だった。俺は学校にいられなかった。1時間しかいられ時計

 

なかった。もう二度と学校には行けないかもしれない。そしたら留年かな。退学かな・・・。

 

にじんだ涙がこぼれないように時々空を見上げながら、駅までの道を歩いた。カゼ

 

「これでも中学は毎日通学してたんだ。友達もたくさんいたんだ。仲のいい先生もいたんだ。

 

楽しい高校生活を夢見ていたんだ。・・・なのに叶わなかった。ダメだった。俺にはできなかった。パンジー







 

 

駅に着いて、改札を通ろうとすると、駅

 

「智也?」


 と声がした。改札の横にベンチがあった、座っていた母さんが、俺のほうに駆け寄ってきた。女の子

 

「1時間目は出られたの?よかったわね」


・・・母さん、ずっと待ってたの?いつ帰ってくるかさえわからないのに。

 

「よく頑張ったわね。ふふふ、せっかくだから何か食べて帰る?」


 ・・・母さん、優しい言葉なんてかけないでよ・・・。俺ダメだったんだよ。学校、行ったけど、やっぱり駄目だった

 

んだよ。ごめん。期待に応えられなくて、ごめん」次女A

 

 歯をくいしばって耐えたのに涙は落ちた。最悪だ。高校生にもなって、何泣いてんだ。


俺。みっともない。バカみたい。


 母さんは俺をベンチに掛けさせて、背中をさすった。恥ずかしいからやめてくれ、涙が三女A

 

止まらなくなる。母さんは俺だけに聞こえる小さな声で、ゆっくりしゃべりだした。

 

「智也、大丈夫。高校なんて行かなくても、別に大丈夫なのよ。」病気になって死ぬわけじゃ


ないんだし。母さんは智也が健康でいてくれたらそれでいいしね。・・・それに高校なんかで将来


は決まらないの。いつでもスタートできるから。・・・学校なんて行かなくても、あんたは、


ちゃんと立派な大人になる。だから大丈夫よ」はぁ!?


 こんなにみじめな息子なのに、こんなに出来の悪い息子なのに母さんは励ましてくれる。


 ごめん母さん。ありがとう母さん。ごめん、と、ありがとうで、俺の頭の中はいっぱいだ。

 

俺はその後も学校に行けないまま、不登校が続いた。相変わらずオヤジはうるさいが、


母さんは俺を見守ってくれていた。ニッコリ







 

 

 数日たって落ち着いた俺は、今の気持ちを歌に乗せたい、と強く思った。江里子さんが、

 

亡くなった旦那さんを思うように、俺も母さんへの気持ちを表現したかった。


 取りとめもなく書きちぎった詩はどこか陳腐な気もしたが、思い切って江里子さんに見せて

 

みた。江里子さんは、詩の書かれた紙をじっと見つめて何度かうなずくと「ちょいギター楽器


かして」と俺のギターをはじき、メロディを口ずさんだ。

 

「やばい、音楽の神様が下りてきた」


 江里子さんは即興で歌い始める。俺はあわてて携帯のヴォイスメモを使って録音した。こんなに


簡単に曲ができるものなのかと、感心しつつ耳を傾けた。


 江里子さんはすごく優しいメロディを口ずさんだ。俺が考えたありきたりな言葉が、すごく


意味のある暖かなメッセージに変わった。命が吹き込まれたって感じ。ほんとにすごい。


 そしてあっという間に完成した曲を、俺は何度も練習した。メインボーカルは、もちろん俺。

 

自分の作った歌詞はどこか照れくさかったが、何回も練習するうちに慣れていった。音譜



 



 



 

 アコースティックライブが行われるライブハウスは、とても小さなスペースで、客席は30カウンターチェアカウンターチェアカウンターチェア


席ほどだ。ほかにも出演者が何組かいて、俺たちの出番は一番最初だった。江里子さんはクリーニング


屋のなじみ客に宣伝したようで、わざわざ来てくれたお客さんに挨拶していた。


俺のことも紹介してくれたが、俺はこういう時、人見知りを発揮してうまく話せない。唯一の

 

顔見知り、飲み屋の店主おっさんには、少し気が和んだ。


 ライブの開始時間が近づくにつれ、緊張が高まる。いつものストリートライブとは空気があせる


全然違う。今日ここに集まったお客さんは、演奏を聴くためにわざわざ足を運んでくれたのだ。


絶対に満足して帰ってほしい。今日来てよかったね、って言ってほしい。そんな心持ちで歌う


のは初めてだった。




 

 

 ステージ横の客席で、自分の出番を待っていると、江里子さんが「あ」と何かを見つけた。Wi


「智也のお母さん、来たよ」

 

・・・え? 入り口を見ると、確かに母さんがいる。慣れない手つきで、受付を済ませている。


 な、なんで。呼んでないのに。ってか、知らせてもないのに。なんでライブのこと知ってんの?pri


なんで来てんの?びっくりして焦っていると、隣で江里子さんがにんまり笑った。

 

「気づいてなかったと思うけど、智也のお母さん、よく路上ライブに来てたんだよ。いつも

 

遠くのほうで見ててさ、変な人だなと思って一度声をかけたら「智也の母です」って挨拶されちゃて。


だから今日のライブも知らせておいた」

 

 江里子さん、余計なことしなくていいのに!・・・困った。どうしよう。手が汗でぐっしょり60分背景白

 

濡れてきた。・・・俺、歌えるかな?あの曲歌えるかな?今日3番目に歌うことになっている。

 

「江里子さん、急だけどさ、曲変えちゃダメなの?俺、母さんの前であの曲歌えない」黄緑

 

 そう頼むと、江里子さんは「はぁ」と俺をにらんだ。




 

 

 

「何言ってんの?あんたバカじゃないの?あの曲は、お母さんへの曲なんでしょ?智也E

 

からのメッセージなんでしょ?歌って伝えなきゃ意味ないよ!じゃなきゃ、ただの自己満足


じゃない!」


 それもそうだけど・・・恥ずかしい気持ちを捨てきれないまま時間となり、俺と江里子さんは

 

ステージに上がった。前から照らす照明の光がまぶしい。客席と距離が近かったが、照明のおかげで


お客さんの顔が見えなくてよかった。母さんもどこにいるのか見つけられなかった。ライト


 1曲目は「いとしのエリー」を歌うことになっている。メインボーカルは江里子さん。俺は


コーラスに回る。演奏が始まると、緊張はだいぶほぐれ、いつもの調子が戻ってきた。


 2曲目は江里子さんのオリジナルソング「あなたへ」。ボーカルはもちろん江里子さん。


 演奏の前に江里子さんは客席を見渡した。最後列に空席が一つある。江里子さんはその空席カウンターチェア


をじっと見つめたかと思うと、悲しそうに微笑んだ。あ、そこにシュージさんがいるのかな


って俺は思った。

 

 静かに曲が始まる。話しかけるような歌い出し。江里子さんの声は、今日すごくきれいだった。おんぷ


・・・あなたに会いたい・・・。江里子さんは、伝えようとしていた。自分の気持ちを。シュージ

 

さんに届かせようと必死だった。江里子さんの目には涙がにじんでいる。切なくて、苦しくて、


一緒に演奏していても、熱いものが込み上げてきた。次女A

 

 演奏を終えると、大きな拍手が会場に響いた。

 

 次は・・・俺の番だ。江里子さんは俺の顔をじっと見て、軽くうなずいた。・・・俺も、俺も


ちゃんと伝えなくちゃ。母さんに。気持ちを。


 ピアノ前奏に合わせてギターを弾く。そして歌が始まった。ピアノ





 

 歌いながら、俺は学校に行けなくなったころを思い出した。不登校になった俺、でも母さんは


家という居場所を俺に与えてくれた。やり場ない不安でいっぱいで、母さんにつらく当たった学校

 

事もあった。それでも母さんは俺を励ましてくれた。家にずっと引きこもってた時も、


こっそりとライブ活動を始めたときも、ずっと見守っててくれたんだ。味方でいてくれたんだ。


温かい目で見ていてくれたんだ。・・・思い出す母さんの顔は、いつも優しい笑顔だ。おんぷ

 

 ずっと言いたかった感謝の言葉を俺は歌に乗せた。ありがとうの気持ちを叫んだ。


 歌が終わると、ステージを照らす照明が少し暗くなって、客席の様子がうっすらと見えた。カウンターチェア


客席の隅に、母さんが座っている。手で顔を覆い隠してるけど、母さんだってすぐに


わかった。みんなが拍手をする中、母さんはずっと下を向いて震えていた。

 

 なんだよ、泣かないでよ。俺の歌、ちゃんと聞いてくれた?…で、気づいたら俺もポロポロ

 

泣いていた。ステージの上なのに、恥ずかしい。でも涙が止まらない。三女A

 

 ・・・母さん、母さん、本当にこんな出来の悪い息子でごめん。よわっちい男になってごめん。

 

変わりたいんだ、変わりたい。母さん言ったよね、「いつでもスタートできるから」って。俺


は今すぐにでもスタートしたいと思ってる。走り出して母さんを安心させたいと思ってる。


 自慢の息子になりたい。立派な大人になりたい。母さんの誇りになりたい。ミドリキティ


 だから・・・お願い。ずっと見ていて。これからも見守ってて、母さん・・・


 


 拍手が鳴り響く中、ステージで俺は、涙をぬぐって大きく頭を下げた。


 

 

 顔を上げると、母さんは優しい笑顔で俺に拍手をくれていた。みどり








おわり



 

このSTORYは、リンダブックス編集部 丸十直子 著 99のなみだ 心 よりお借りしました。