『発明ブラッド』
私は幼少の頃、父から
「“フォーカルプレーンシャッター”を発明したのはオジイチャンだよ」と聞かされた。
一眼レフカメラのシャッター機構で、上下に動く踏切の遮断機がヒントになったとか。
横長のフィルムには、従来型の左右横移動でなく、
上下縦移動のシャッターの方が、ナルヘソ!高速移動に適しているというわけだ。
当時にしては画期的アイデアで、発明協会賞の黄ばんだ賞状も記憶にあるが、
特許申請の不備とかで、一銭にもならなかったと祖母がこぼしていた。
祖父の血を引く父も、やはりエンジニアで、今ではあまりお目にかかる事は無いが、
日清カップヌードルのお湯をブシュッと注いでくれる自動販売機は、代表作である。
その他にもチョット笑えるアイデアを大真面目に設計していたのを覚えている。
私と弟のオモチャは、父の恰好の研究材料。勝手にバラバラに解体され、
復元されない事もしばしばで、変わり果てた宝物の姿によく泣かされた。
それでも、自宅で図面を引きながら、厚紙で原理モデルを作りながら、
いつもこう叫んでは、呑んだくれていた。
「天才!今度こそ世紀の大発明!特許!特許!」
本人の熱い想いとは裏腹に、一度も御利益を授かった記憶は無い。
影で支える母の苦労も、なんのその。
“発明”に明け暮れた父は、“酒”好きが高じて10年前に他界したのだが、
どうやらあの“酒”と“発明”にありったけの情熱全てを注ぐ“DNA”は、
親から子へ、子から孫へと受け継がれて、シマッタ!ような気がする。
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