こんにちは、運用調査担当です。
今回は半導体デバイス論をやっていきまーす!
例のごとく、私の解釈違いが無きにしも非ずなのでご了承。
半導体デバイス論
■スイッチの役割
図1
インバーターにとって、スイッチは命です。このスイッチには、トランジスタという半導体の一種が用いられています。トランジスタの改良こそ、今日の半導体界における最も重要な関心事なのです。トランジスタはパソコンなどに幅広く応用されますが、なかでも鉄道用は大電流を扱います。このような、半導体のなかでも高電圧や大電流を制御するものをパワーデバイスと呼びます。
■トランジスタとはスイッチのことだ!
図2
トランジスタってのは、要するにスイッチです。
一般的なスイッチは指、すなわち物理的入力で主回路の電流のON/OFFを切り替えます。これを電気的入力にしたのがトランジスタです。制御する信号を流すか流さないかによって、主回路のON/OFFを切り替えます。
図3
左側Trがトランジスタ、右側Dがダイオードです。鉄道用インバーターでは、このトランジスタ(またはサイリスタ)とダイオードが2つセットで1つのスイッチの役割を果たします。
図4
図1のスイッチの部分をトランジスタとダイオード、抵抗の部分を交流モーターに置き換えてみました。これがインバーターの基本的な構造です。以降では、橙破線で囲まれた部分に注目してみていきます。
■GTOサイリスタ素子
図5
左はGTOサイリスタ(ゲートターンオフサイリスタ)の回路記号です。813系・883系世代の車両は、GTOサイリスタという素子(=部品)が用いられています。GTOサイリスタはトランジスタではなく、サイリスタの一種ですが、役割は一緒です。
Siはシリコン(=ケイ素)、Dはダイオードを表します。
このGTOサイリスタという素子、消費電力や発熱が大きいため、あまり省エネルギー化には貢献できませんでした。九州では1994年~1998年製造の車両に採用されました。
■IGBT素子
図6
左がIGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)の回路記号です。885系や、815系、817系などの車両は、IGBT素子が用いられています。IGBTはトランジスタの一つであり、GTOサイリスタに比べ、高耐圧、スイッチングの速度が速い、騒音が小さい、省電力であるという特徴があります。815系~BEC819系、1999年~2016年製造の車両に採用されました。
■ハイブリッドモジュールSiC素子
図7
右はSBD(ショットキーバリアダイオード)の回路記号です。811系のリニューアル車には、ダイオード部分にSiC-SBDというダイオード素子が用いられています。
それまで、半導体ではSi(シリコン)が用いられていましたが、技術革新により、SiC(シリコンカーバイド)という素材が誕生しました。これはシリコン (Si) と炭素 (C) で構成される化合物半導体材料です。省エネ性や絶縁破壊電界強度(=高電圧に耐えられるか)、耐熱性がSiより優れています。この素材をダイオードに適応して誕生したのがSiC-SBDです。
なお、トランジスタの部分は従来通り、シリコン製のIGBTが用いられています。Si-IGBTとSiC-SBD、二つ組み合わせてハイブリッドモジュールSiC素子と呼ばれています。
■フルSiC素子
図8
左はMOS-FET(金属酸化膜半導体ー電界効果トランジスタ)の回路記号です。MOSFETはトランジスタの一種で、IGBTより前から存在しており、IGBTよりも消費電力は低く、スイッチング速度は速いのですが、絶縁破壊電界強度が悪いという欠点がありました。更なる技術革新を経て、先で述べたSiCをトランジスタに応用出来る様になりました。SiCは絶縁破壊電界強度が優れているため、MOSFETはこの弱点を克服し、鉄道用インバーターといして採用されました。
2018年にデビューした821系にはフルSiC素子が採用されています。SiC-MOSFETとSiC-SBDの両方シリコンカーバイドで構成されており、フルSiC素子と呼ばれています。
以上をまとめてみると
能動素子 | 受動素子 | 通称 | |
813系 | Si-GTOサイリスタ | Si-ダイオード | GTOサイリスタ素子VVVF |
815系 | Si-IGBT | Si-ダイオード | IGBT素子VVVF |
811系R | Si-IGBT | SiC-SBD | ハイブリッドモジュールSiC素子VVVF |
821系 | SiC-MOSFET | SiC-SBD | フルSiC素子VVVF |
815系世代のIGBT素子の性能を100として、比較します。
815系 | 811系R | 821系 | |
サイズ | 100 | 60 | 35 |
重量 | 100 | 55 | 35 |
損失 | 100 | 65 | 45 |
自動車界ではEV化が進み、ますます半導体市場、それもパワーデバイス市場は加熱すると思われます。
素材ではGaN(gallium nitride・窒化ガリウム)や、ナノ結晶ダイヤモンド、cBN(cubic boron nitride・立方晶窒化ホウ素)など、様々な研究が進められています。今後の動向に注目です。
まだまだ書きたいことはたくさんですが、私の作図能力が限界に...(作れるけどめっちゃ疲れるウ)
みなさんにも半導体の素晴らしさを知っていただければ光栄です。ご覧いただきありがとうございました。