小学生のころの私は、机に向かう時間だけが、世界と繋がる唯一の方法だった。
ノートに積み上げた文字の分だけ、誰かが振り向いてくれると信じていた。
本当はただ、家族に褒めてほしかっただけなのに。
中学生になると、私は急に口を閉ざした。
胸の奥で渦巻く“それ”を、誰にも触れられたくなかった。
どうせ分からない。分かるはずがない。そう思っていたから。
学校を休みがちになった頃、親戚が来て理由を尋ねた。
言葉にできない不安を、千切れた糸のように必死に繋いで説明した。
「みんなが私の話をしている気がする。悪口ばかりで、ずっと見られている気がする」
返ってきたのは、軽い笑いだった。
「誰でもそう思うよ」と。
その日から、私は何も話さなくなった。
代わりに潜り込んだのは、顔も表情も見えないネットの世界。
声だけが漂うそこでは、怯えなくてよかった。
やがて私は、自分に都合のいい言葉だけを拾い集めるようになった。
同じ頃、兄は刃物のような言葉を投げつけた。
「ブス、足太い、ださい、不登校者、死ね」
今は何も思わないふりができる。
けれど鏡の前で止まらない視線は、あの頃の残響かもしれない。
画面の向こうの可愛い誰かを見るたびに、私は削れていった。
隠すように重ねた化粧は、私の顔を守る鎧であり、同時に檻でもあった。
全日の高校も、半年でやめた。
それでも学歴だけは欲しくて、通信へ移った。
そこで再会した同級生の輪に、私は蟲のように絡みついた。
嫌われるのが怖くて、笑って、頷いて、何も言わなかった。
五人でいても、いつも独りだった。
それでも、本当に独りになることのほうが、ずっと怖かった。
修学旅行の部屋割りで、ほとんど話したことのない子の名前が隣にあった。
先生は言った。
「あなたは、あの子たちとは違うでしょ。自分でも分かってると思うけど」
分かっていた。
浮いていることも、ここにいて幸せになれないことも。
それでも私は、輪の外へ出る勇気を持てなかった。
孤独よりも、孤独になる瞬間のほうが、怖かったから。