「ちくしょう!」
プールサイドのテーブルに携帯を投げた。
「ジヨン?どうした?」
イライラしてる俺にヨンベが声をかけてきた。
テーブルに放り投げられた携帯を見る。
「ヌナ?」
「連絡がつかない…5日になる」
「えっ…何かあったのかな?」
「…分からない」
聞こうにも聞ける相手がいなかった…俺とジウンの事は誰も知らない…ヨンべを除いては…。
「前にもあったんだ…携帯の電源切ったの忘れてて…そん時は部屋まで行ったんだけど…」
「ここからは行けないね」
「うん…」
俺はザワザワした気持ちを鎮めるようにプールに潜った。
冷たい水が体を…頬を…頭を冷やす。
ダメだっ…集中しろ!俺!…ツアー中だぞっ!
気持ちを振り切るように泳いだ。
*********************
事故の後のジウンは、ジウンであって、ジウンでないような…そんな感じだった。
高校の時からずっと感じてた、掴み所のない感じがない…。
おばさんと楽しそうに父親の話しをしてる…こんな事…今まで一度もなった…。
「父さん、日頃の不摂生が祟ったのね~wいいんじゃない?この際だから、きちんと治してもらえば…。看護婦さんをナンパしてなきゃいいけどっwどっちが退院早いか競争ねっw」
ジウンには、おじさんがお酒の飲み過ぎによる肝障害と胃潰瘍で入院してるっと言っている。
…そう、おばさんに言うよう頼まれた。
〈「ごめんね。ドンウク君…あの子に、こんな大事な記憶が抜けてるなんて思わせたくないのよ」〉
おばさんの辛そうな顔を思い出していた。
「ドンウク、そこのカバン取ってくれる?」
事故の時に持っていたカバンを指さした。
「中に何か記憶の欠片が入ってるかもしれないでしょ?」
そう言って微笑むジウンの目は、子供みたいにキラキラ輝いてて、宝探しでもしてるみたいだった。
「今、無理しなくても…」
渋々カバンを渡した。
「何を忘れてるのかさえ覚えてないのよ…気持ち悪くって。先生は治るって言うけど…記憶の何か手がかりを探したいじゃない?ドンウク、手伝ってくれる?」
俺の顔を覗き込むに見上げるジウンに、俺の中の悪魔が言った…。
「一緒に探そう」
「うん」
画面の粉々に割れた携帯…。
「ヒドイね…着くかな?」
ドキッとした。
電源は俺が切ったきりになってるはず。
「あ…ダメだ…着かない。壊れちゃったかなぁ?充電がないだけ?…どっちにしても買い替えなきゃね…これじゃ~使えないや」
ホッとしてる自分がいる。
「お財布の中に領収書入ってないかなぁ~?」
ジウンが自分の長財布を開ける。
仕事用とプライベートと領収書を入れる場所を変えていた。
「これ…」
手にはGUCCIの領収書。
一緒に入っていた犬用のハーネスの小さなカード。
「なに?」
覗き込んだ。
「うん…これ…プライベート用に入ってたんだけど…仕事用よね?…」
「ハーネス?」
最初に浮かんだのは、ジヨンが飼い始めた犬の事だった。
「そうだろ?ジウン、そそっかしいからw」
そう笑って言ったものの、俺の頭の中では確信があった。
「あ…これ…事故の直前だ…喫茶店…カプチーノ2つ?」
「ジウン、この日、仕事休みって言ってたから、どこかでお茶してたんじゃない?」
「1人で?」
「よく1人で飲みに行くだろ?家じゃ~美味しいカプチーノ飲めないって」
苦し紛れに答えた。
ジヨンと一緒だったのか?…いや…そんな訳ない…一緒だったら事故の時にジヨンもいたはずだ…誰?
コンコン
病室のドアがノックされマネージャーがドアの隙間から顔を覗かせる。
「セブン…時間だ」
ちっ!
「マネージャーさん、こんにちは。いつもスイマセン」
「いや…いいんですよ。良くなって良かったですね」
「はい♬毎日ドンウクの顔見れるから…w」
照れながら顔を赤らめ微笑むジウンを俺はどこか冷めた目で見ていた。
*********************
「行ってらっしゃ~い」
病室からドンウクを送り出し、包帯の巻かれた左手と点滴に繋がれた右手とで、不自由な思いをしながらカバンをあさっていた。
ん?
カバンの底に紙が手に当たり取り出した。
折りたたまれた紙を広げる。
【クォン・ジョリー様】?
誰?
品物…ハーネス。
あっ…さっきのGUCCI!
住所…これ…どこかで見た事がある…携帯のアドレスに入ってるかも…。
携帯を探す…あっ…使えないんだった…。
まだ少しふらつく足で病室を出た。
公衆電話から宅配便に書かれた相手先に電話をかけてみる。
トゥルトゥルトゥル
呼び出し音が鳴るばかりで、相手が出る事はなかった。
誰…だろ?
ジョリーって言うからには…女の子?
仕方なく受話器を戻し部屋に戻った。
*********************
「ジヨン!大変だ!」
リハーサル中、ヨンベが深刻な顔してやって来た。
「今から話す事…落ち着いて聞けよ…あ~、どうしよ?俺もまだドキドキしてる…」
「何、もったいぶってるんだよ。早く言えよ」
少し苛立ちながら尋ねる。
「さっき、マネージャー達が話すのを聞いたんだ」
「だから、何!」
「…ヌナが…事故にあった」
「…えっ!」
ヨンベの言葉が俺の心臓がえぐるように刺す。
「…いつ?無事なの?」
頭の中は真っ白なのに、言葉が口から出る。
「俺達が出発したあの日…あの場所で…ヌナは車にはねられた」
「あの日…あの場所って…まさか…金浦空港?」
「あ~、そう…ヌナ、来ようとしてたんだ。すぐそこまで来てた…」
「…で…?ジウンは…?」
震える声で聞いた。
「骨折はしてるみたいだけど、命には別状ないって…」
「……良かった…」
安心して力が抜けた…地面にしゃがみ込む。
「ヌナ、入院してるから連絡取れないんだね。もしかしたら携帯壊れちゃってるのかもしれないし…」
ヨンベが俺を気遣って明るく話す…確かに、そうかもしれない。
「明日には帰れるし、今日1日頑張ろう!…ねっ?」
ヨンベが俺の肩を力強く叩いた。
明日が待ち遠しかった。
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