「おかえり~」
散歩から帰るとジヨンが笑顔で出迎えてくれた。
「た…ただいま…」
タプからキスされたオデコが熱い…。
「ガホ~?ヒロを困らせなかったか?」
ジヨンがしゃがんでガホの頭を撫で私を見上げる。
「ん?どうした?ヒロ…顔が赤いぞ。熱でもあんのか?」
ジヨンが私の腰を抱き、顔を近づけ私のオデコに自分の額をつけた。
「熱はなさそうだなっ」
「だっ…大丈夫だよ!何ともない…」
チクンッ!
嘘をついた事に胸が痛む。
「シャワー入って、仕事行ってくる」
「仕事って…その手で…」
「大丈夫!言ったでしょ?元々私、左ききだったって…それに、行ったら何か出来る事があるかもしれないじゃん」
そそくさとその場を去り浴室へと向かった。
しばらくは手を濡らしちゃダメって言われてる…。
包帯の巻かれた手にビニールを被せ、テープで手首をグルグル巻きにした。
シャワーを出しっ放しにする…。
シャワーの音が、耳に残ってるタプの言葉を消してくれると思った。
「ごめんな…俺…お前の事…好きになるハズじゃなかったんだ…好きだ…」
優しい目…。
「…分かってる…困らせる事も…ごめん…」
私を困らせる為の冗談や、いつもの意地悪じゃない事は伝わった…だから、あの時咄嗟に嘘をついてしまった。
ジヨンに後ろめたさを感じた?
違う…よね?
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「ヤダ~!ヒロ…どうしたの?その手」
「ガラスで切っちゃって…すいません…忙しいのに…」
「あら…その手じゃ~仕事は無理ね」
「いいえ!大丈夫です!左手使えますから…」
「そうは言ってもね~痛いでしょ?」
「大丈夫!」
「ヒ~ロ~?前に言ったわよね?甘えなさいって…」
ユノオンニの優しい顔…。
「あ…はい…」
「じゃ~業務命令!今日は帰りなさい!ケガしたばかりなんだから…ねっ?」
「でも…」
「ほら!帰った帰った!お大事に~」
追い出される形で職場を後にした。
そうは言っても…どこ行こう?
家に帰った所でジヨンと顔を合わせたら、また胸の奥がチクンって痛くなりそうだった。
久しぶりにお母さんの所に行ってこようかな?
タクシーを捕まえる。
「盆唐メモリアルパークまで」
途中、花屋に寄り母さんの好きだったマーガレットを沢山買った。
ん?誰か来た?
母さんの墓前に新しい花が供えられていた…マーガレット…。
辺りを見回す。
人影はなかった。
誰だろう?
「母さん、久しぶりだね。私…元気にしてるよ。好きな人のそばで幸せにしてる…」
ジヨンの笑った顔…寝起きの顔と一緒に一瞬タプの顔がよぎった…。
違う違う!
「この間、久しぶりにお店に行ったよ。懐かしかった…。でも…すぐに出て来ちゃった…。母さん…私の選択、間違ってなかった?トンさんに社長をお願いするって決めた今も本当はまだ迷ってるの…。父さんと母さんは誰にお願いしたかったんだろうって…。もっと、沢山話しておけば良かったね…いつでも話せるって思って、先延ばしにしてた…」
もっともっと沢山話したかった…聞きたかった…教えて欲しかった…。
仕事の事…料理の事…恋の事…。
母さん…私…今、胸がサワサワするよ。これは何?
*********************
「どうした?」
タクシーから降りた所でヨンベに声をかけたれた。
「お休みの日も走ってるの?」
「まぁね♬…ん?帰らないの?」
「帰る…帰るけど…」
口ごもる。
「少し、その辺歩いて行かない?」
「え?あ…うん…」
ゆっくり、私の歩調に合わせてくれた。
「手…ケガしたんだって?」
「ジヨンに聞いたの?」
「あ~、ジヨンのヤツ、自分を攻めてた」
「え?何で?ジヨンは関係ないよ」
「…多分…関係ないから攻めてるんじゃないかな?」
「???…どういう事?」
「分からない?ジヨンはいつだってヒロに関係してたいんだ…好きだから…手のケガ…自分が居たらケガさせてなかった…あの時、帰らなければ…携帯を取りに行ってれば…って後悔してるんだ…自分が居ない所で起きた事だから余計なんじゃない?」
「そんな…」
「ヒロ」
「何?」
「ジヨン…本気だよ…ヒロの事。心から大事にしたいって思ってる…想いが強いから心配もするし、ヒロの全てに関係したいって思っちゃう…でも、もし…」
言葉を詰まらせた。
「もし?」
「もし…ヒロがそれを重荷に思うなら…ジヨンから離れて欲しい」
ヨンベの真っ直ぐな目…。
「俺…ヒロの事、好きだよ…ヒロの辛い顔、見たくない。でも…」
「ん?」
言いにくいそうに話すヨンベ。
「ジヨンとは幼馴染でいい所も、そうじゃない所もいっぱい知ってる…ヒロには悪いけど、俺はジヨンが傷つく所は見たくない…ごめん」
ヨンベ…優しいな…。
「あやまらないで…そう思うのは当然だよ。私…重荷になんて思ってないよ。むしろ感謝してる…私には心配してくれる家族はいないから…ただ…」
「ただ?」
今の胸のサワサワを話そうとして辞めた。
「…ううん…何でもない」
これは私自身が考えるべき事だから…。
「帰ろうか?もう、大丈夫?」
「うん。ありがとう」
ジヨンへの恋しい気持ちに、ブレは一つもない…ただ、この気持ちのサワサワがシミの様に拡がってしまわないか不安だった。
ジヨンに会いたい…ジヨンに抱きしめられたい…。
今度はヨンベの歩調に私が合わせて宿舎に戻った。
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