「Blood・Edge」最終回 「閉幕」
――――――白く染まった世界が徐々に色を取り戻す。
「ここは・・・?」
体を起こし辺りを見回すが、そこは見慣れた校庭でも、ましてや今まで俺が見たどこでもなかった。
黒くて巨大な門、ただそれだけがある空間。
その奥からは絶えず怨嗟のような呻き声が聞こえている。
それになんだか空気が重い。
「やあ、こんにちは。結城蓮くん。そしてようこそ、地獄の入口へ」
突然声がしたほうを見ると門の下に俺より少し年下くらいの少女が立っていた。
鈴が鳴るような明るい声がこの空間とは不釣合いな印象を受けた。
なんか、どこかで見たことのある気がする顔立ち、そして声も。
それはどこだったか。大事なことのような気がするのに思い出せない。
長い髪は根元から青と赤にグラデーションしていて、左右の目はそれぞれ赤と青。そんな人間見たことあるわけがないのだが。
というか今凄く不穏なワードが聞こえたんだが・・・。
「ここが、地獄・・・なのか?」
「の、入口。まだ中じゃない」
まあ、確かに雰囲気的にはそんな気がしないでもない。
でも・・・。
「地獄、か・・・」
つまり俺は死んだのか。でもそれより・・・。
「朝姫がどうなったか知らないか?」
今一番気になったことを尋ねてみる。この少女が知ってるはず無いと思うのだが。
しかし、帰ってきたのは意外な答えだった。
「霧島朝姫は生きてるよ、ちゃんと。それより、他に聞くことないの?何で自分が地獄に落ちたんだ~、とかそもそもお前は誰だ~、とか」
なんだろう、コイツ。
こんな場所でなんでこんな妙なテンションのやつがいるんだろう。
「そりゃ、この世界に生命が生まれた頃からずっとここにいるんだもん。低~いテンションでずっとここに居たら気が滅入っちゃうんだよ」
今、俺は何も言ってなかったんだが。それに俺は『朝姫』とは言ったが苗字までは言ってないはずだ。
「大丈夫。別に地の文に見せかけて喋ってたみたいなオチじゃないから。ここはそういう場所なんだよ。思ってることが顔に出易いというか」
いや、そこまで詳細に顔には出ないだろう。
しかしそんな問答をやってる場合ではないので気になったことを尋ねてみる。
と言うかさっき訊いて欲しかったらしいから、訊いてみる。
「お前は何者だ?」
「あれ、そっちなんだ。まあいいけど。・・・私はリーゼ。役職は地獄の門番で死人の管理が仕事。まあ、神話で言うところのヘルとか閻魔大王とか、そんなあたり。ついでにいうと君が覚醒した時に語りかけてたのも私。死に近くなって私の声が聞こえたんだよ」
たいそうな役職の割に、見た目は子供だな。
「この生意気な死人め・・・」
「そうやって怒ると、尚の事子供っぽいぞ」
「・・・死ねば良いのに」
いや、もう既に手遅れだ。
少し落ち着いたところで、一つ溜息をついてから彼女が話を仕切り直す。
「ついでに言うと、君がここにいるのは悪いことをしたからじゃなくて、単に私と会わなきゃいけないことになってるからってだけ」
「会わなきゃいけないってどういうことだ?門の向こうに行かなきゃ行けないのか?」
「私と会わなきゃいけないのは伝えなきゃいけないことを伝えることと君の行く先を示さなきゃいけないから」
そう言って彼女は俺から少し離れて背を向けた。
「君はこれからも生きなきゃ。世界を救ったんだから、生きる権利がある」
「そんな大げさな・・・」
「や、レーヴァテインが発動したら確実に世界を滅ぼしてた。そんな魔力があの土地に集まるなんて普通考えられないことなんだけど、インウィディアは運命を書き換えるという反則的な能力でそれを成した。多分、あの土地にはあそこに閉じ込められたのより多く魔力を持った人がいると思う」
つまり、これが終わったところでまだ解決されてない問題があるということか。
「そういうこと。でも、アレを止めてくれたことにホントに感謝してる。だからあなたは、やっぱりこれからも生きなきゃ。これは人間の生死に関して全権を持つ私の意見。あとはあなたがそうしたいと言えば万事OK」
そう言ってこっちを振り向いて俺の顔を覗き込む。
これはつまり、俺を生き返らせることで他の問題も解決させようとしてる?
「そういうわけじゃないよ?君だけが世界を救えるわけじゃない。君や華蓮より強いのも、あそこにいるから。・・・私が待ち望んでる、あの子も」
なんというか、生き返るのが嫌になる一言が入ってたんだが。後、後半何か聞き取れない言葉も混ざっていた。
まあ、いい。
リーゼの言葉に対する俺の答えは・・・。
「もちろん、生きて朝姫のそばにいたい」
「そっか。じゃあ・・・」
「でも」
「?」
突然逆接が入って不思議そうな顔をするリーゼ。
「それなら、あのゲームで死んだ奴も、一緒に生き返らせて欲しい」
ただの我侭。でも、感謝してるならそれくらい叶えてくれたっていいじゃないか。
「まあ、インウィディアが張った結界の中で起きたことで実世界と繋がってないからそれくらいは簡単だよ」
「そうか」
なら、いいや。
「じゃあ、結城くん含めて25人、犠牲になった人たちを生き返らせるね」
「いや、待て。26人だ」
「へ?」
「華蓮もあのゲームで死んだ」
「でも、あの子は・・・」
「もちろん力までそのままじゃなくて、出来れば制限するなり切り離すなり・・・」
「でもそれなら、そのためにあなたは力を払わなきゃならない。君の力であの子を抑えこむしかない。それに君はずっとあの子を監視し続けなきゃいけない。何があっても」
「それだけでいいなら」
「・・・変わってるよね、君。一度大きな力を持てば失うことを恐れるのに、それをあの子の為に捨てるなんて」
「そうか?」
「だって自分も含めてたくさんの人が死ななくちゃいけなくなったんだよ?その元凶を生き返らせるなんて」
「もちろん、ただ生き返らせるんじゃなくて、長い間かけて、償わせるよ。死んで償うなんて、迷惑かけられた側からしたら何もされてないわけだし。せめて全員に謝らせたい」
「・・・そう」
軽く目を閉じて黙考し、なんだかんだで納得してくれたようだ。
「後悔しても、このあとまた華蓮みたいなのが世界を滅ぼそうとしても、君はもう戦えないからね」
「ああ。でも俺以外でも世界は救えるんだろ?それに世界を救うって、疲れる」
「はは、無責任だね」
「そう思うなら俺みたいな奴に世界を託すな」
「はいはい」
黒い門の向かいに、白い門が現れる。
彼女が作った、生への扉。
「じゃ、行ってらっしゃい。もうここに戻ってこないでね?」
少し寂しそうな声がしたが振り返らないで手だけ振って門をくぐる。
門が閉じる瞬間、こっそり一瞬だけ振りかえった時に見た彼女は笑顔で手を振っていた。