カアンッ!
金属音がアロンダイトからのみ響く。
天之尾羽張は跡形もなく消えていた。
華蓮は次々と武器を換えていくが、どれもこれもアロンダイトの刃が触れた途端に形を失っていく。
銀に輝く槍も、雷を纏う鎚も、音速を超えた速さで飛来する光の矢さえ。
そしてその度にアロンダイトは輝きを増していく。
「ちょっ、なにこれ!?」
予想外の事態に華蓮は飛び退り、右手に漆黒の篭手を発生させる。甲から伸びる刃は赤黒く禍々しい光を放つ。
「紅渦結晶《ルフトエッジ》ッ!」
『Lune-Absorb!!』
本物と同等以上の極大な魔力を込めた刺突すらアロンダイトは無効化。跡形もなく消し去り、『吸収』する。
種明かしをすると俺がアロンダイトに刻んだのは《吸収》のルーン。
足りない魔力を補い、かつ効率的に敵の武器を減らす。
思いつく限りの最善の手段。
それを刻むのに残りの魔力のほとんどと、かなりの血を費やしたが・・・アレだけ馬鹿みたいな魔力を吸い上げたおかげで魔力だけはずいぶんと回復した。
そして無防備に懐に突っ込んできた華蓮を柄で殴り飛ばす。
「かはっ!?」
追い討ちはかけない。
華蓮が朝姫と同化している以上、俺には彼女を斬れやしない。
殺さなきゃいけなくても、剣を振り上げることが出来ない。
すべてを終えることが出来る瞬間を、俺は見送った。
ただ倒すだけじゃなく、俺は朝姫を救いたいんだ。
ルーンは血と魔力を対価に俺の想像のとおりの効果を創り出す。
なら。
想像しろ結城蓮。朝姫を救い、この悪夢を終わらせる力を。
彼女を救う剣を。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」
ついに華蓮がキレた。
目の前が赤く染まり、意識を失いそうになる程の膨大な魔力が発現。右腕に巨大な剣が現れる。
いくら吸収のルーンでも限界はある。
アレだけ巨大な魔力の塊を吸収すれば、暴発してアロンダイトに俺自身まで吸収されかねない。
「死ねえええええええええええええええええええええええええええええっ!!!!」
しかし巨大故に攻撃は大振りになる。
その隙を俺は逃さない。
焔の旋風が巻き起こる。
冷気を纏っていなければ俺なんか一瞬で灰になっていたであろうそれをアロンダイトの刀身で吸収し、肉薄。
それでも吸収し切れなかった焔で身を焼かれながら、藍莉の時以上の全力の魔力全てを、再び新たなルーンを刻むために使う。
失血死する寸前まで血を奪われながらも、華蓮が次の行動を起こすより速く、俺はアロンダイトの輝く刃で華蓮を斬る。
その刃は体を斬ることなく華蓮をすり抜けた。
『Lune-Divide!!』
「・・・ッ!?」
バリッ、と何かが剥がれるような音とともに、朝姫と華蓮が分離される。
全力で刻んだ《分離》のルーンは、ちゃんと効果を発揮してくれた。
俺は分離して弾き飛ばされた華蓮に切っ先を向ける。
「く・・・ぅっ」
「これで終わりだ。・・・諦めろ」
「・・・・・・ぁはははははははははっ」
突然笑い始めた華蓮。
俺は警戒して距離を置くが、何もしてこない。
「君って馬鹿なんじゃない?『諦めろ』って言ってる暇があれば殺せばいいじゃない。あたしは世界を滅ぼそうとしてるんだけど?」
「でも、殺してあれが止まるとは限らない。止め方がわからなくなったらどうしようもないし」
「堅実派だね。でも残念。あたしを殺す以外にアレを止める手段はないんだよ」
華蓮は分かっていて嗤う。朝姫に似た顔をした彼女を殺せない俺を。
「それに朝姫の肉体から分離した今、あたしは朝姫でもなければ人間ですらない。随分昔に砕けた紅霊晶《エリクシル》の欠片。七大罪の嫉妬《インウィディア》の意識体。そんなものに情けをかけるなんて」
「でも、ホントは人間になりたかったんだろ?」
「!?」
確証は無かったが、人間でないと言うの華蓮の顔はそれを想像させるのに十分だった。
朝姫と同じ顔で、悲痛な表情を浮かべる彼女を放って置けるほど、俺は強くない。
「だから人間に嫉妬した。何の苦労もなく自分の欲しい物を持ってるんだもんな。だけど自分は朝姫が良いと言った時しか出られない」
「・・・そうよ。今まで何度も人間にとり憑いた。でも誰もあたしを外に出してくれなかった。それで段々こんな素敵な世界を占有している人間たちが許せなくなった」
それが嫉妬という性質と混ざり合い、この惨劇という結果に至った。
それがこのゲームの、本当の動機。
「でも、もう疲れた。このゲームはあたしの負け。これから先何をしたってこれ以上あたしはここに居続けられないってわかったから。だから、さっさと壊してよ」
結局弱い俺には誰も救えない。救われない。
なら、せめてもうこれ以上苦しまないように。
無防備な華蓮の胸を漆黒の剣が貫いた。