たん。
と大きく跳躍。
自分の長い髪が翻るのを感じながら相手の懐に飛び込んで低い位置から斬りつける。
「遅いっ」
上から振り下ろされる斬撃を確認することなく刺突の勢いのまま走り抜ける。
刀が空を切る音を背後に聞き、瞬間、独楽のように軸足で回転して方向転換。
その勢いを殺すことなく横凪ぎに切り裂くっ!
「っ・・・!?」
刹那、手首に痛みが走り刀が跳ね上げられる。
くるくると空中で回転し、からん、と音を立てて板張りの床に落ちた。
「ふぅ・・・。今のはまあまあ良かったな。攻撃に頼りすぎなのは少し気になるが」
ここでようやくあたしは師匠の振り上げた峰で打たれていたのに気付いた。
模擬刀だから刃の方でも切れはしないけど痛いものは痛い。
手首には丁度峰の厚さと同じ太さの赤い跡がついていた。
・・・後で腫れるんだよね、これ。
「よし、今日はここまで。負けたから片付けは頼んだ」
とん、と肩を叩いて去っていく師匠。私の兄で我が家に代々伝わる剣術、「神那流」の師範代、神那裕樹。
っていうか、あたしが勝っても片付けさせるじゃない。
恨みを込めた視線も無視して兄さんは母屋に戻っていく。
うちには母屋と道場が同じ敷地の中にある。
だからあたしも剣術を習わされている。うちの家系は男も女も関係なく剣を習ってる。
お陰であちこち刀傷だらけでとてもじゃないけど素肌なんて晒せない。
夏でも長袖ブラウスで過ごさなきゃならないので服装チェックでよく怒られるし。
「・・・あたしだって女の子なんだから、もう少し優しくしてくれたっていいじゃない」
文句を言いつつ弾かれた刀を拾い、鞘にしまう。
そして昼間開いている剣道教室で使われた道具を片付けてモップ掛け。
ほとんど毎日の日課。
普段は『剣道と剣術は違う』と言ってる癖に剣道教室で子供に教えてる兄さんは結構楽しそうだったりする。
しかし毎日片づけをやって慣れていてもだるいものはだるい。
稽古で疲れてるのに。
しばらく黙々とモップ掛けに専念する。
静かな広い空間にあたしの足音だけが響く。
この時間のこの辺りなら車や人もあまり通らないから凄く静か。
そんな静かで厳かな雰囲気の道場が昔から好きだった。
「ま、こんなもんでしょ」
モップ掛けを終え、少し休憩する。
…我ながら結構綺麗になったと思う。
思わず緩んだ頬を引き締め、戸締まりをして母屋に戻った。
「はあ~っ♪生き返る~っ」
ちゃぷちゃぷとお湯が波打つ。
割と広めのお風呂なので手足を伸ばしてリラックスする。
ついでにマッサージも。
これをやると風呂が長いって怒られるけどそんなの知ったことではない。
自分の傷だらけな手足を揉みほぐす。
「~♪」
鼻歌を歌いながらゆっくりとお風呂に浸かる。
しばらく出たくないや。
「未織、遅いぞはや・・・」
「きゃあぁぁぁぁああああああああっ!?」
扉を開ききる前に超反応で閉める。
ちょっと扉がきしむ・・・と言うか若干危険な音がしたけど、そんなことは後回し。
「何してんのよっ!最っ低っ!」
「お前の裸なんてどうでもいいんだ。さっさと風呂出ろ。袴着て月羽持って物置の前に来い。いいな?」
いつにも増して上からな態度だがまあ、こう言うときは毎度真剣な話だから何かあるんだろう。
・・・それにしても自分が開けた癖にその言い種は無いでしょ。
今回はここまで。