ご存知のようにロシアは共和国で、広い領土の中に様々な民族が暮らしています。ウクライナへの軍事侵攻が終わりの見えない中、そういった少数民族とこの戦争はどう関わっているのでしょう。
NHKで放送された「みみよりくらし解説」から、石川解説委員のお話を一部引用いたします。(強調はブログ主による)
ロシアには主要な民族スラブ系のロシア人以外にもモンゴルやトルコ系のアジア系の人々も住み、ロシア人とは異なる文化、宗教、言語を保ってきました。「ロシアの中にあるアジア」が、ウクライナへのロシアの軍事侵攻の中で揺れています。
石川専門解説委員に聞きます。
A ロシアの中のアジア人を自覚する若者たちが4年前に「ロシアの中のアジア人」Азиаты России を造り、インスタグラムなどで自らの伝統や文化を発信し始めました。
創立者の一人のワシーリーさんは、自身はシベリア出身のブリヤート人で、発信を始めた理由として「ロシアではロシア人が全体の80%、国語もロシア語で、少数民族は自らの文化や伝統、言語が徐々に失われていると感じています。またアジア系の少数民族について、ロシアの人々があまりに知らない。まるで外国人のように扱う。そうした意識を変えるために、民族の文化を発信しようと思った」と述べています。
ロシアは形の上では連邦制をとっているものの、プーチン大統領のもと中央集権を強めて、民族の文化がないがしろにされてしまうという危機感もありました。
インスタグラムでは当初は政治的な目的ではなくそれぞれの民族の文化を紹介しました。
たとえばトゥヴァ共和国、遊牧して暮らす少年の生活の様子
海のないアルタイでは貝が貴重品で、貝を使った装飾の民族衣装。そして民族衣装を生かしたハカシのファッションショー、裏声を使った民族歌謡なども紹介されています。賛同者が増えるとともに貧富の格差や官僚の横暴、汚職など社会問題も人々から寄せられるようになり、社会政治問題も取り扱うようになってきました。
Q このロシアの軍事侵攻について“ロシアの中のアジア人”のグループはどのような立場をとったのでしょうか?
A はっきりと反対の立場を示しました。インスタグラムにも戦争反対と明示しています。
先日私はズームでワシーリーさんにインタビューしました。「我々にとってウクライナ人は決して敵ではない。1万キロも離れたウクライナとの間で何の対立があるというのだ。プーチンとその側近たちは、自分たちの戦争を押しつけているのだ」
A 戦争反対を表明する、戦争という言葉自体を使うことは法律で禁止され、ワシーリーさん自身はジョージアに逃れて無事でしたが、仲間の中には警察に拘束され、裁判にかけられた仲間もいるということです。
危険を冒しても戦争反対を訴え続けているのは、少数民族の共和国からの死者の割合が、モスクワなど大都市に比べるとものすごく多くなっているからです。
ワシーリーさんは貧しさとプロパガンダが原因だとしています
「若者はプロパガンダの影響で貧しさから抜け出すために志願兵として戦場に行く。しかし十分な訓練を受けていないので、2週間から1ヶ月で戦死してしまうことが多い」
A ワシーリーさんは、ロシアのプロパガンダの影響は強く、まだ自分たちの声は小さいと感じています。今ロシアの少数民族をロシア人という一つの民族に統合するかのようなプロパガンダが進められていることを懸念しています。一方ロシア兵が残虐行為をするのはアジア系だからだと差別的な報道をされることもあります。
ワシーリーさんはロシアの中のアジアは決して戦争を望んでいないと訴え、兵士からの除隊を求める訴えも増えているということです。
今後ウクライナでの戦争で若者の棺が民族共和国の故郷に次々と戻り、戦場の実態を経験した兵士が故郷に戻ってきますと、戦争の実態が隠し切れなくなりそれぞれの民族の自意識を目覚めさせ、ロシアを揺さぶることになるかもしれません。(石川 一洋 専門解説委員)
