「咳」は気道の異物や痰を排除するために、反射的に生じる防御反応です。
人間が「咳」をするときの流れは以下の通りです。
A:異物などによる刺激が「咳受容体」という部分に反応し、迷走神経を介して延髄にある「咳中枢」へ伝わります。
B:伝わった刺激によって、人間は息を吸い(吸気)、声門が閉じて、腹筋や気管支平滑筋、肋間筋などが収縮、気道内圧が上がります(加圧の状態)。
C:そして、閉じていた声門が開くと一気に呼気を生じ、「咳(咳嗽)」となり異物は外に排出されます。(ちなみに「咳」は時速200kmの速さで排出されます。はやっ!)
なお、「咳受容体」は咽頭、気管、気管支の他に肺胞、胸膜、心膜、横隔膜、そして外耳道にあります。
耳垢取りやこよりなどで外耳道をコチョコチョすると咳が出るのは、この咳受容体が刺激されるためです。
「咳」には2種類あります。
・湿性咳嗽:痰がでる咳・・・細菌性肺炎、気管支炎、COPD、気管支拡張症、肺がんなど
必要に応じて去痰薬を用い、【鎮咳薬で安易に止めないように注意】する。
・乾性咳嗽:痰がでない又は少量の咳・・・気胸、咳喘息、胃食道逆流性、間質性肺炎、薬剤性咳嗽など
必要に応じて【鎮咳薬を用いる】。
『鎮咳薬』には2種類あります。
①中枢性鎮咳薬:「咳中枢」を直接抑制。
・麻薬性鎮咳薬・・・コデイン、ジヒドロコデインなど
依存性あり。鎮咳作用は強い。副作用は眠気・呼吸抑制・便秘など
・非麻薬性鎮咳薬・・・デキストロメトルファン、エプラジノン、チペピジンなど
依存性なし。麻薬性よりも鎮咳作用は弱いものが多い。副作用は比較的少ない。
②末梢性鎮咳薬:「咳受容体」を遮断したり、「咳受容体」への刺激を抑制。
・非特異的治療薬・・・トローチ(デカリニウムなど)、含嗽剤(アズレン、ポビドンヨードなど)など
原因にかかわらず効果を示す。
・特異的治療薬・・・気管支拡張薬、抗ヒスタミン薬、副腎皮質ステロイド、マクロライド系抗菌薬など
原因疾患に合わせて使い分ける。
長引く咳も嫌ですよね。
「咳」は、続く長さで3種類に分けることもできます。
・3週間未満の咳嗽・・・急性咳嗽:原因は【感染症】が多い
・3週以上8週未満の咳嗽・・・遷延性咳嗽:原因は【感染症】と【感染症以外】
・8週間以上持続する咳嗽・・・慢性咳嗽:原因は【感染症以外】が多い
「慢性咳嗽」にはたくさんあります。
・咳喘息(57%):夜間~早朝に増悪。(咳で眠れない。)乾性咳嗽が多い。成人では30~40%が典型的喘息に移行。慢性咳嗽で一番多い。気管支拡張剤(β刺激薬やテオフィリン製剤)が有効。
・副鼻腔気管支症候群(15%):慢性副鼻腔炎あり。膿生痰の存在。湿性咳嗽が多い。去痰薬や14・15員環マクロライド系抗菌薬が有効。
・胃食道逆流症(12%):食道症状の存在。H2ブロッカーやPPI投与で軽快する場合が多い。
・アトピー咳嗽:花粉症などと併発。(季節性あり。)イガイガ感やかゆみあり。乾性咳嗽が多い。気管支拡張剤は無効。H1ブロッカー、麦門冬湯が有効。
・感染後咳嗽:上気道炎(風邪など)が先行。咳のし過ぎで嘔吐する場合もある。自然に軽快。乾性咳嗽が多い。H1ブロッカーや麦門冬湯、抗ヒスタミン薬、中枢性鎮咳薬が有効。抗菌薬は無効。
・慢性気管支炎:現喫煙者の湿性咳嗽。
・薬剤性咳嗽:ACE阻害薬、β受容体遮断薬などの服用開始後の咳
・心因性咳嗽:ストレスなどによる咳。身体所見や画像所見に異常がなく、有効な薬剤がすべて無効な時。睡眠中は咳がない場合。
あなたのその「咳」、どれに当てはまりますか?
治療方法もそれぞれ違いますので、何が原因で出ている「咳」なのか?気にしながら治療しましょう。
参考資料:
薬がみえる Vol.2(MEDIC MEDIA)
薬がみえる Vol.3(MEDIC MEDIA)
参考URL:
https://blogs.yahoo.co.jp/ito_pharmacy/69159052.html (「咳」が出るのはなぜか?)
https://blogs.yahoo.co.jp/ito_pharmacy/69653229.html (『長引く咳』の原因と特徴)
https://blogs.yahoo.co.jp/ito_pharmacy/69729479.html (複数の『去痰薬』を使う理由)
https://blogs.yahoo.co.jp/ito_pharmacy/69452790.html (『咽』と『喉』と『咽喉』の違い)