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画家レンブラントの「テュルプ博士の解剖学講義」をどこかで見たことあると思います。
私も、どこかで見たことのある絵で、普通にみると「先生が、生徒たちに解剖の講義をしているんだろうなぁ」なんて思う絵です。
 
4名ほど講義をまじめに受けていない人がいますね・・・(><)
1人は、絵を描いている人に「俺、そこそこイケメン(自称)なんだからカッコよく描けよ!」と言わんばかりです。しかし、見ている私としては「先生に見ていること気づかれていますよ!!」と突っ込みたくなります。
 
1人は、絵を描かれていることを少し気にしているのでしょうが、先生の正面にいる生徒。先生の目が他の人にうつったその時、「今だ!」と言わんばかりにチラ見している感じです。
 
1人は、手には資料をがっちり持って真剣に講義を受けていますよ!と言わんばかりですが、目はもう講義を聞く気がないという感じでこっちを見まくっています。しかも、先生に気づかれない位置で堂々と。もう計画的犯行です。見ている私もつい「こっち見んな!」と言いたくなるほどです。
 
最後の1人は、多分気分が悪いのでしょう。解剖部位を見たくないため見慣れていないためか、目をそらし天井を見て講義に集中できていません。医者より薬剤師になることをオススメします。
 
あとの3人は真剣ですね。いいお医者さんになれることでしょう。
 
で、素人の私はこんな感じで見ていましたが、この絵、実は『怖い絵』なのです。
 
まず、この絵を描いてくれと言った人は、この講義を受けている7人の生徒らしき人達なのです。
この絵が描かれたのは1632年。
17世紀のオランダの首都アムステルダムは、海外貿易により世界一の大都市となっていました。富裕な中産階級の市民たちが政治経済を動かし、各業種の「ギルド」と言われる組合も存在しました。
当時は肖像画として個人の存在を残したのですが、個人個人が画家に肖像画を描いてもらうより、「ギルド」のメンバーが数人集まり、画料の高い画家に大型の肖像画(集合写真みたいなもの)を描いてもらい、それを組合のホールに飾った方がカッコいいんじゃね!?という考え方も生まれ、オランダ独自のジャンル「記念集団肖像画」が確立、流行した時代でもありました。
そう、この講義を受けている7人は「ギルド」に属している人たちなのです。
 
この7人は全員外科医。「ギルド」も外科医の集団、「外科医ギルド」です。
講義をしている先生は、「神の手」を持つヨーロッパ随一の医者ニコラス・テュルプ博士(市長を4回務めている名士)で、『名医の講義を受けている、俺たち(7人の外科医)』という絵なのです。
 
しかし、この7人(又は5人)、外科医なのに『大学で医学を修めていない』んだそうです。
当時の医者は2種類おり、テュルプ博士のような尊敬される医者(内科医・病理学者など)と、外科医と言っても理髪師がする髪やひげの手入れ、かつら作成、あとはけがや骨折の治療、浣腸などの「手当て」ができる人たちでした。
ですので、医者としての学問的素養が欠けていた人たち(外科医)が、名医の講義を受ける、何とも自己満な絵なのです。
 
また、この手術は「一般公開」されています。手術している部屋は「観客席付き手術室」なのです。
名医が、人体の解剖をする場面(年に一回だけ)を『観覧』することは当時の流行だっだそうです。
 
そして、解剖される遺体は何なのか?
あだ名は「小僧」で、アリス・キント(41歳)という強盗や看守を殴り重傷を負わせ絞首刑になった死刑囚なのです。
 
当時の考え方は、遺体を切り刻まれることは刑の一つ(冬場に多かったそうです)で、このように公開することで、犯罪が減るのでは、と考えられていました。
この遺体の人物は、そこまで重罪かと言えば疑問です。しかし、このように死刑になり、死後も裸にされ解剖を受け、それを皆に見られるという、いわば「実験の物体」と化している「モノ」であり、お金が取れる「見世物」となっている、というわけです。
 
そんな状況を、実はこの絵は表現しているのです。
 
外科医も、このようなイベントを数多くこなすことで、理髪師としてではなく医師としての地位向上、外科手術の技術発展を目指していたわけですが、金儲けも忘れてはいませんでした。
死刑囚の数が足りなくなると、墓荒らし、そして殺人なども起こり、死体を高額取引していたそうです。
 
背景や意味が分かりもう一度絵を見ると、その絵は凶変しますね。
よく見ると、こっち向いている後ろの2人と上向いている1人は、後から付け加えられている感じのタッチ(服の黒色が薄い!)です。元々は4人の「記念集団肖像画」で、後で俺達も付け加えといて!と言われ、付け加えたのかもしれませんね。
周りの暗いところは宮殿のような柱も見えます。公開場所の風景でしょうか?
 
「解剖」のおかげで医学も飛躍的に発展したことは事実ですが、このようなことも医学の発展に貢献しているのかもしれません。
 
参考文献:怖い絵 泣く女偏 (著:中野京子)
 
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