(1)
カフェでぼんやりとタバコを吸いながら、
空を見ているのが好き。
タバコの煙が空に昇って消えていく。
バリの青空は宝石のように美しく、
凛として気品があるわ。
ヨーロッパのいろいろな空を見てきた。
この空の下にはたくさんの人生があって、
泣いたり笑ったりしながら、幸せを求めて生きている。
私もそんな一人。
生きるのに疲れたときは、ぼんやりと青空を見上げると、
悲しみもつらさも空が吸い込んでくれる。
名もない路地裏のカフェで見た、空の色を思い出す。
もう一本タバコを吸ったら、今日もまた、
この空の下で自分の旅を続けるわ。


(2)
ときどき、一人で名もないカフェでぼんやりしていると、
たくさんの過ぎ去った時間を思い出す。
多くの芸術家がパリを愛し、パリで死んでいった。
ショパンもマリア・カラスもマレーネ・ディートリッヒも。
今の私が愛するのは、大好きなパリと飼っている猫や犬たち。
カフェのテラスは、
人生という舞台を眺めるつかのまの桟敷みたいじゃない。
誰でも、懸命に自分を演じて生きている。
私だって、ピアニストという、天が与えてくれた役を演じている。
せっかく生まれてきたんだから、
精いっぱい行きて自分をつらぬくわ。


フジ子・ヘミング「我が心のパリ」

by優子