村野四郎「春の火」

ふるい温室の扉のまえを
日暮れの風の縞が
意味もなく往き来する
あなたはもう匂うでもなく
しかも色あせようともしない
ただ春から残された火のように
ひとりで永く燃えているのだ
ジキタリスよ
それは悲劇だ
くるしい私の夜々に
あなたは散ることを忘れている

優子