【諦めの悪い男~続きです。~】
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「どうだ?少しは落ち着いたか?」
しばらく経ってオスカルが静まった後、フェルゼンは彼女と長椅子に並んで座り、ブランデーを勧めながら、そう声をかけた。
「ああ、ありがとう。」
「何があった?言いたくなければ、無理には訊かないが。」
「…男というものは…」
「うん?」
「一人の女では、満足できないものなのか?」
「……」
「どうなのだ?」
「そうだな…」
フェルゼンはゆっくりと、逡巡しながらも答えを導き出した。
「私は、確かにアントワネット様を愛している。だが…君を愛しているのも、嘘偽らざる気持ちだ。」
そう言いながら、彼はオスカルをじっと見つめた。
「勝手なものだな。」
オスカルは、プイと顔を背けた。
「ハハッ…何とでも言ってくれ。これが私の真実なのだから、仕方ない。ところで…アンドレが浮気でもしたのか?」
途端に、俯いていたオスカルの顔が曇った。
「わからない。あれが、そうなのか…それとも、ただ偶然居合わせただけなのか…。」
「彼は、何と言っているんだ?」
「何も…いや、その前に私が飛び出してきたから。」
「まずは、彼に確かめるのが先決だと思うが。」
「そんなこと…こわくて出来ない。」
オスカルは首を左右に振った。
「気持ちは理解できなくもないが、それをしないことには、はじまらない。そして、その答えによってその後どうするか…それは、君自身が決めることだ。」
「……」
「彼が君への裏切りを否定した場合、このときは問題ないだろう。ただの誤解なのだからな。もっとも君がそれを信じられなければ、話は別だが…。」
「もしアンドレが、あっさり認めたら…私は…」
「どうする?すべてを許して、もう一度やり直すか?それとも…とっとと見切りをつけて、私とヨリを戻すか?もっとも、そうなれば私は大歓迎だ。」
「こんなときに、何を…」
「別に、フザけてなどいない。私は大真面目だ。君だって、本当は私を必要としているのだろう?現に今夜、こうして私を頼ってきたわけだし。どうだ?今夜は、泊まっていかないか?」
フェルゼンはオスカルの肩に手をまわし、彼女をじっと見つめた。
オスカルは、ただ動けなかった。
しだいに唇と唇が近づき、いまにも触れ合おうとしたところで
コンコン!
ドアをノックする音に遮られた。
「オスカル様、ジャルジェ家からお迎えの方が、お見えですが。」
侍女が、そう告げた。
「そうか。ではフェルゼン、私はそろそろ失礼する。急に邪魔をして、悪かった。」
オスカルは、緩んでいた襟元をあわせて、身づくろいをした。
「そうか、帰るか。」
フェルゼンは、落胆の色を隠さなかった。
迎えに来たのはアンドレだった。
二人が玄関までやってくると、彼は姿勢を正してフェルゼンに挨拶をした。
「フェルゼン伯爵。夜分に失礼を致しました。」
「とんでもない。私も、思いがけず楽しかったし。それより本当に帰るのか?私としては、泊まってもらっても一向に構わないのだが?」
フェルゼンは、もう一度オスカルを見た。
「ああ、今日は失礼する。ありがとう。」
「また、いつでも来い。私は、いつだって大歓迎だ。」
二人のやりとりを、アンドレは従僕然とした微笑みで見つめていた。
帰る道すがら、オスカルとアンドレは馬をゆるゆると進めながらも、ずっと無言だった。
重苦しい沈黙が、ずっと二人を包んでいた。
屋敷に帰りついてから、アンドレはすぐにオスカルの部屋へ急いだ。
「話がしたいのだが…いいか?」
彼は、躊躇いがちに訊ねた。
オスカルは無言のまま、部屋へ入るよう促した。
オスカルは、すでに夜着に着替えていた。
「どういうことだったのだ?あれは。」
アンドレがドアを閉め部屋へ入ると同時に、オスカルは後ろ向きのままアンドレに問うた。
静かで低い声だった。
「聞いてくれ、オスカル。おまえに誤解させるような軽率なマネをしたことは謝るが、俺とマルゴは何でもない。正直、あの女には迷惑しているんだ。信じてくれないか?」
オスカルは背中を向けたまま聞いていたが、ふいに振りかえりアンドレにしがみ付いた。
「わかっている、おまえが私を裏切る筈がないのは。だけど、私は…私は…。」
彼女はアンドレの胸に顔を埋めたまま、嗚咽した。
「すまなかった、オスカル。俺が悪かった。すまない…。」
アンドレはオスカルを両腕でしっかりと抱きしめた。
つづく