ブルー・ノーズ・トゥルー・デイズ
目次
⓪グレー・ルーム
➀ブルー・レイン
②マオウとユウシャ
③ファースト・ドロップ
④リモコンとテレビ
⑤レイン・ブルー
グレールーム
7:00
七月の終わりごろ。3LDKの高層マンションの402号室。そこに俺は住んでいる。
夏休み初日の朝七時ごろ、パソコンの明かりしかない寝室で俺は一人チャットに没頭していた。
―白猫:おはよー
―ケンちゃん:おっはー
―メロンパンダ:白猫さんおはようです
―白猫:メロンパンダさん挨拶は敬語じゃなくてもいいですよw
―ケンちゃん:いや~でも良かった、白猫さん夏風邪治ったんですね
―白猫:まぁ、鼻はまだムズムズしてるんですけど、そこはなんとかw
―メロンパンダ:私の学校でも風邪の人多かったんですよ、そのおかげで夏休みが繰り上がっちゃって困ってるんです
―ケンちゃん:え?何でですか?繰り上がったらむしろ、嬉しくありませんか?w
―白猫:繰り上がったせいで宿題が増えたとか?
―メロンパンダ:当たりです・・・
―ケンちゃん:マジっすか・・・でも、理由ってそれだけですか?
―白猫:?・・・ケンさん怖いって、てかどういうことですか?
―ケンちゃん:ほら最近ニュースでやってるネット中毒者の奴ですよぉ~
―アサシンさんが入室しました。
―アサシン:確かに多いですよね~でもネットやり過ぎてヤク中状態ってなんだかおかしくないですかぁ~?それも十代ばっかだし
―ケンちゃん:あっ、アサシンさんこんちゃーす。やっぱそうですよね~なんか裏がある気がするんですよね~w
―白猫:二人とも怖いですよぅ―僕もそのことは知ってますけど、そこまで重要視するほどの事でもないんじゃないんですか?
―メロンパンダ:私もそう思います
その時だった。ドンドン、と部屋のドアが鳴り響いた。
「ミノル!ごはんだよ、ミナトと食べてるから早く来てよ!」
あさっぱから勘弁してほしい。せっかく盛り上がってきたのに、とチャットに落ちます
と文字を打ち部屋を後にした。リビングに入ると作り笑顔をしたアナウンサーが天気予報をしている画面とテーブルの周りでくつろいでいる姉と兄の姿があった。
「ミノル!てめぇ~俺のUSBどこやったんだよ!」
そこはおはようって言えよ、とツッコミしそうになったが、「しらねぇーよ」と返事をして席に着いた。
「それなら、昨日テレビの台に置いてあるのを見たけど・・・」
兄が味噌汁をすすっていた途中だったため味噌汁が隣にいる俺の方向に飛びかかってくる前に俺は茶碗を片手に立ち退いて危機を回避した。
「ゲホゲホ・・・マジか・・・・」
俺の椅子に味噌汁(兄の不純物入り)がまき散らされていることなど気にも留めずに兄はテレビの方向へ走って行った。兄の朝食は味噌汁以外完食されていたため、兄はUSBを手に取ると部屋に行ってしまった。姉のシオネは無様な俺を見てクスクスと意味のない笑いをこらえていた。窓際にあるティッシュボックスからティッシュを取り出して椅子に付いた味噌汁をふきながら「あいつ・・・絶対狙ってふきやがったな」と実現しない殺意を胸の奥で膨らましながらテレビの天気予報をうわの空で聞いていた。これが日野家の夏の朝である。この惨事の数分後、兄はミッキーのロゴの入ったTシャツにジーンズをはいて部屋から出てきた。手には赤いカバーに包まれたiPhoneが握られていた。「どこいくのよ?」と姉が軽く訊くと、兄は靴紐を結びながら「友達の所、夕方には戻るよ」と言ってそそくさと出て行ってしまった。
「兄貴の奴、こんな早くに出かけるなんて珍しくね?」
俺が目玉焼きの黄身を箸で無造作に割りながら姉に問いかけてみると、黒縁の眼鏡を指でゆすりながら「さぁ、彼女でもできたんじゃないの?」と吐き捨てるように返答した。姉はテーブル上の俺以外の食器を片づけると台所で洗い物を始めた。
「ミノルは自分で洗ってね」
わかったよ、と返すと突如俺の携帯にメールが届いた。送信者は兄からだった。
From兄貴:件名 無題:今出られるか?
本文はこれだけだった。この時から俺は言い知れない違和感を感じていた。
窓際に見える雲に覆われた灰色の空が俺を欺いているように思えた。
