夜通し起きていた。朝の光がさしてきて、私は鏡の前で髭を剃っている。若いときには薄い髭しか生えなくて、濃い髭を生やした同じ年代の男たちを羨望したものだが、決して濃くはないものの一本一本の毛がずいぶん固くなった。白髪も交じりはじめた。頭の毛もだいぶん白髪が多く交じるようになった。マンションの前の公園で、木の葉を燃やす場面にでくわすことがあって、私はその煙からいも遠ざかっている。近づけば、一挙にその煙が私を襲ってきて年齢を倍加させるような気がする。しかし反面、その煙を吸えば、別の世界に飛翔できそうな気がしてそこに入ってみたい気があるのも事実だ。人は危険に磁場を感じるものなのだ。亜季があの丹後の民家でのようにいっしょに踊ってくれるかもしれない。あるいは、梨絵と泳いだあの海へ戻れるのかもしれない。いや、待てよ、丹後の民家で踊ったことや梨絵が裸で泳いだのは現実だったのだろうか。あるいは、どこからどこまで現実だったのか。梨絵とはもう別れてから長い歳月がたち、どこにいるのかさえ分からず、連絡の取りようもない。亜季なら、何かヒントを与えてくれるかもしれない。そう思って亜季の部屋をックする。部屋の中にいるだろうと思ったが返事がない。まだ、疲れて眠りこけているのだろうか。もう少し寝かせてやるべきかと思ったが、無意識にドアのブをまわしていた。するとカチャリと音がしてドアに隙間ができた。中を覗いても亜季がいる気配がない。思いきってドアを開くと、そこには綺麗にかたづけられたひと気のない部屋があるばかりであった。目を部屋の中、ゆっくりと巡らせると、ベッドの横のテーブルの上に手紙があるのを発見した。白い厚手の封筒がある。置き手紙らしい。部屋に入っておそるおそるその手紙を持ちあげてみる。重いと思っていた封筒が意外に軽い。それは、亜季のかまえようもなくひょうひょうとした動きを連想させた。羽のない蝶がひらひらと空を飛ぶものかと思うが、実は羽が見えないのは私だけで、蝶は立派な羽で空を泳ぎまわっているのかもしれない。封書の表に端麗な文字で私の名前が書いてある。しかし、それを開封していいのかどうか。開けば、そこから煙がたちこめて、一挙に老いるのではないかと懼れている。もう一方で、私の背中に羽をけてくれて空を泳ぐ秘密がその中に隠されているような気がして開けたいという誘惑にもかられる。了蝶のお別れをクリックしてご覧ください。作者作者の想像による産物創造で、実生活を描いたものではありません。就職転職、心の相談ひきこもりサポートご相談は下記からどうぞ。電話相談、出張可愚痴聞き、話し相手も承ります。ひきこもり業のための応援。ご案内は、ここをクリックしてください。マイべストプロでのご紹介