【法廷ライブ SS元船長第2回公判】(2)
《調査捕鯨船団の監視船「第2昭南丸」に乗船し、顔面を負傷したとされている○○さんに対する証人尋問が続き、検察官は環境保護を標榜(ひょうぼう)する米団体「シー・シェパード(SS)」元船長のピーター・ジェームス・ベスーン被告(45)がランチャーを発射した際の対応について質問する》
検察官「被告がランチャーを構えたとき、どうしようとしましたか」
証人「コンパニオン(ブリッジの下にある構造物)の物陰に隠れようとしました」
検察官「実際に隠れましたか」
証人「隠れませんでした。隠れようとしましたが、止まりました」
検察官「どうして止まったのですか」
証人「ランチャーの筒先がブリッジに向いていたからです。狙いが外れ、自分に当たるかもしれないと思いました」
検察官「それでどうしましたか」
証人「ブリッジを見上げました」
検察官「ブリッジを見上げたとき、視界を何か通り過ぎましたか」
証人「はい」
検察官「何が通り過ぎましたか」
証人「暗くて赤色っぽい物が飛んでいました」
検察官「当時、何が飛んだと思いましたか」
証人「分かりませんでした」
検察官「通り過ぎた物の速度は?」
証人「速かったですが、目では追えました」
検察官「なぜその物が通り過ぎたと思いましたか」
証人「ベスーンがランチャーで撃ったと思いました」
《○○さんは裁判長の方を見ながら、はっきりとした口調で証言した》
検察官「ベスーンが…、失礼」
《検察官も○○さんの証言につられ、「被告」を付けるのを忘れ、呼び捨てにしてしまう。ベスーン被告は○○さん、検察官を上目遣いに見つめながら、持っていたノートに何かを書き記している》
検察官「被告が何かを撃ったところを見ましたか」
証人「見ていません」
検察官「ランチャーの発射音は聞きましたか」
証人「聞いていません」
検察官「視界を物が通り過ぎた後、何かありましたか」
証人「ボートから喜ぶような声が聞こえました」
検察官「喜ぶような声とはどのような声でしたか」
証人「『ヒャッホー』という感じの声が聞こえました」
《歓声を聞いた証人はベスーン被告が乗るボートの方を向こうとした。だが直後に異変が起こったという》
検察官「何が起きましたか」
証人「目が開けられず、痛くなりました」
検察官「痛かったのは目だけですか」
証人「両ほほも痛くなりました」
検察官「それから何かありましたか」
証人「酪酸のにおいがしました」
検察官「どう思いましたか」
証人「(自分に)酪酸がかかったと思いました」
検察官「痛くなったのは両目ですか」
証人「両目です」
検察官「どんな風に痛みましたか」
証人「右目の方は燃えるような、激しい痛みがありました」
《当時の恐怖を語る○○さん。ベスーン被告は通訳の言葉に耳を傾けながら、傍聴席の後方にある時計の辺りを見つめる》
検察官「両目は開けられましたか」
証人「できませんでした」
検察官「両ほほはどのように痛みましたか」
証人「ヒリヒリする感じでした」
検察官「視界を物が通り過ぎてから、目やほほが痛むまでの時間はどれくらいありましたか」
証人「1秒か、2秒ぐらいでした」
検察官「『酪酸のにおいがした』と証言していましたね?」
証人「はい」
検察官「以前にも、かいだことがありますか」
証人「はい」
検察官「どんなにおいでしたか」
証人「くさいです。ブルーチーズのにおいを強烈にした感じです」
検察官「ほか(のにおいい)にたとえられますか」
証人「肥だめのにおいに似ています」
検察官「酪酸が顔にかかったと思いましたか」
証人「はい」
検察官「どうして顔にかかったと思いましたか」
証人「目とほほの痛みを感じて、ほぼ同時ににおいをかいだからです」
検察官「何か顔にかかった感触は?」
証人「感じていません」
検察官「当時はヘルメットをかぶっていましたね。ヘルメットの前面にガードがあり、ガードを鼻のところまで下げていましたね?」
証人「はい」
検察官「なぜ酪酸が顔にかかったといえますか」
証人「もう1回、質問をお願いします」
《検察官が同様の質問を繰り返す。証人は1、2秒の間を開けてから、答え始める》
証人「ヘルメットのガードと顔の間から(酪酸が)入ってきたと思いました」
検察官「『酪酸がかかった』と思い、どうしましたか」
証人「その場でしゃがみ込みました」
検察官「目は開けられましたか」
証人「開けられませんでした」
検察官「どのようなことを考えましたか」
証人「『失明するかもしれない』と思いました」
検察官「Cさんに話しかけられましたね」
証人「はい。『大丈夫ですか』と言われました」
検察官「何か答えましたか」
証人「できませんでした。痛すぎて、それどころじゃなかったです」
《激しい痛みに襲われた○○さんは必死にコンパニオンの物陰に身を隠し、しゃがみ込んだという。検察官がその理由を尋ねる》
検察官「なぜ身を隠したのですか」
証人「SSのボートにカメラマンがいました。(自分の姿を)撮影されたくないと思い、移動しました」
《海の男の意地を見せた○○さん。その後、Cさん(法廷では実名)に連れられ、シャワールームに移動し、目や顔を洗ったという。このシャワールームには27日の証人尋問で証言台に立ったAさん(同)や、Bさん(同)も来た。○○さん、Aさん、Bさんがシャワールームに到着した順番について、○○さんは覚えていないという》
検察官「Aさん、Bさんがなぜシャワールームに来たと思いましたか」
証人「酪酸にやられたと思いました」
検察官「どうしてそう思ったのですか」
証人「Aさんは顔が赤くなり、『痛い』と言って顔を洗っていました。Bさんも顔を洗っていました」
《証言台の○○さんを見つめるベスーン被告。その顔は無表情だった》
=(3)に続く
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