「あなたを県立図書館の館長に任命します!」
当時教育委員長だった私は、甲府駅のまん前に出来た新しい県立図書館の館長に就任した作家の阿刀田高氏に任命状を手渡した。
なぜなら県立図書館の設置者は、手続き上教育委員長となるからだ。図書館など行ったことがない私が設置者とはもはやギャグでしかない(^^;
実は県立図書館長は公立高校長の天下り先として最上位、これを民間人にするには力技が必要だった。図書館を考える会のおばあちゃん達の直訴で「本が好きな人を館長にして欲しい、私たちも応援するから🙏🏻」と店の事務所で3時間も粘られた。私はおばあちゃんのお願いにはとても弱い💦
教育委員会の定例会議で私はこのことを聞いてみた。
「そろそろ図書館も出来上がるし県民の関心も高い。館長さんは決まったの?」
事務局「それはこの後お茶でも飲みながら💦」
私「それじゃ議事録に載らないじゃん💢」
メディアも取り上げすったもんだの末、白羽の矢を立てたのは、かの大作家 阿刀田高氏。新聞で「知事が直々に懇願した」と書いてある。おばあちゃんたちも喜んでくれた。
さて開館日当日午後、セレモニーの前に館長と教育委員5名の顔合わせがある。
「時間は45分、自己紹介15分、館長との歓談30分、小林委員長中心に適当にお願いします」とのメモを渡された💦 私は阿刀田も後藤田も知らない、読むのは下世話な週刊誌だけ。会話の接点など全くない!さあ困った…💧
いよいよ教育委員と阿刀田氏との歓談開始、自己紹介など5分で終わる。
エイっ!
私「阿刀田先生、お昼は召し上がりましたか?山梨名物の『鳥モツ煮』とか?」
阿「うん、いただいたよ、美味しかった(^^)」
私は大作家のネクタイにシミがついてるのを見逃さない、そしてギャンブルに出た「これは鳥モツ煮のシミに違いない!」見事に的中した👍🏻
阿「君は学校の先生かい?」
私「僕なんか田舎の商店主です」
阿「なるほど〜、やっぱりね (笑)」どんなやっぱり?
話は続く「私は昔、テレビで食レポをするほどグルメを気取ってたんだ。宇野重吉はそば喰い、私はうどん派だ!お互い一歩も譲らないから彼とは食いもんの話はしない」(よしよし、ノッてきたぞ!)
私「やっぱりうどんですよね〜、お昼も鳥モツ煮定食のそばをうどんに変えたんでしょ?先生」
阿「分かるかね!アッハッハ~(^O^)/」
(こんな商人のDNAを授けた両親を恨む…)
阿刀田氏は作品で『瓶詰めのホワイトアスパラガスを食べたら女の指だった!』みたいな文章を書くトンチの効くおじさんなのである。
事務局「そろそろテープカットのお時間となります」30分じゃ足りんだろ (笑)
私は図書館の設置者、テープカットもど真ん中に立ちバサっと切る!の予定が、知事が来て、国会議員が来て、来賓が来て…その都度私は隅に追いやられていく。終いには一番隅のテープカットのポールの前に立っていた。「こんなとこ切らなくてもいいだろ💧」真っ白な手袋と金色のハサミの威力を感じることなくセレモニーは終了した。私の目の前で例のおばあちゃん達が手を振っていた👏🏻
氏に「街の本屋が困るから新刊本は少し経ってから図書館に並べて欲しい🙏🏻」とお願いしたら二つ返事で聞いてくれたし、月に2度くらい図書館を(民間の書店も)回って意見交換。友人達を招いて定期的に講演会も開いて本の素晴らしさを説いてくれた。ご当地出身の林真理子や辻村深月も目の前に現れる。破格に安い報酬なのに🙇🏻そして2年後には名誉館長となり、金田一秀穂氏がその職を引き継いだ。山梨県民みんなが感謝している。
後日、県教委事務局から私に一言「図書館長のポストが1つ減ってしまったので、副館長を2人にさせてもらえませんか?」そうか彼らにとって図書館長は重要なポストだった。「いいですよ!館長が民間人になりましたから(^^)」私も大人になったものだ。
ちなみに私は、後にも先にも図書館に行ったのはテープカットの日だけであるm(_ _)m