4.5点/5点

 

この作品は寓話ともいえるけれど、私たちに大切なことを気づかせてくれる魔法のような映画だと思う。フォレスト・ガンプはまるで純粋無垢な赤ちゃんのようだ。それがこの映画で彼と出会って抱いた印象だ。彼はIQや知性という意味では人より劣っているのかもしれない。あなたはfool、おバカさんと言われても、彼は真っ直ぐに母の言葉「人生は、チョコレートの箱のようなもの。食べてみるまでは中身がわからない」とか「バカをするものがバカだ」という言葉を道しるべを心に、人生を文字通り、行き当たりばったりのまま、全速力で走り抜ける。そこで起こる奇跡の連鎖は、果たして、ただの寓話だと言い切れるのだろうか。

脇を固める役者では、大きな愛情でガンプを包む母役のサリー・フィールドが何といっても素晴らしく、大人になって紆余曲折ありながらもガンプと再会する大人ジェニーのロビン・ライトもその葛藤と現実感が素晴らしい。ガンプとの再会のモーメントも感動的だ。そして、エビ漁船を買うことを夢見るババと、後に親友となるダン隊長扮するゲイリー・シニーズとガンプの交流にも心揺さぶられる。そして、フォレスト・ガンプ=トム・ハンクスは一世一代の奇跡の存在を見せてくれた。彼の天才性がそこにある。

幼少時から馬鹿にされているガンプに、唯一心を繋いでくれるジェニーが「ラン!フォレスト!ラン!」と叫んだ瞬間から、彼の疾走人生が始まったともいえるけれど、風のように走り、そのままどこまでも走り続ける。ルールもわからない中、アメフトでとにかく走り続け、全米代表選手になり、ケネディ大統領と会い、ベトナム戦争の兵士としては、戦場を駆け巡り、何度も何度もジャングルに入っては深手を負った仲間を助け出し、大統領から勲章をもらい、その後、卓球にはまり、取りつかれるように打ち込んで、中国での世界と戦うまでに。これは全ておとぎ話のようだけど、私はそこに大きな真理があると思っている。

ガンプには、私たちが普段振り回されているエゴというものが感じられない。彼は先入観を持たない。彼は人をジャッジしない。彼は過去を悔いることをしない。未来を悲観しない。ただこの今、この瞬間、目に現れるものをありのままに受け止め、そして何かやるといった瞬間に、全力、全速力でわき目も振らず、没頭する。彼の人生の奇跡は、全力で今に没頭し続けた結果のご褒美(様々な味のチョコレート!)のようにも思えてくる。

彼が赤ちゃんに見えると行ったが、普段、私たちが赤ちゃんを目の前にした時、そのキラキラとした瞳、くるくる回る瞳でこちらを見つめてきた時に、何とも言えず癒される。それはなぜだろう。私たちはいつも人間社会の中で自他の観念とエゴの狭間に晒されている。でも、赤ちゃんは私たちのことを一切先入観も持たず、ジャッジもしない。当たり前だけど。ただ、ありのままの人生に表れた一つの新奇性に純粋に反応する。

ガンプはそんな赤ちゃんの反応のように、目の前で繰り広げられる出来事に素直に反応し、出会う人たちにも先入観もジャッジも無く、ありのままで迎えていく。先程も語ったように、彼には振り回されるエゴがない為に、今を生きる密度と集中力と没入感が半端ない。目だってやろうとか、成功してやろうとか、誰には負けたくないとか、あいつに仕返ししてやる、とかそんなものは無く、ただ目の前に現れたことに無心に取り組み、全力で、全速力で生き抜いた。

彼はバカかもしれない。でも、バカ、ってとてつもなく大きな力を持っていると思う。禅的にはバカ=空(くう)と言えるかもしれないけど、そう余計な雑念やら観念やら欲望やら人目やらに振り回されて、今ここに生ききれないまま、未来に不安になり、過去に後悔して、目の前の今の現実が冴えない薄ぼんやりな状態になっている自分に愕然とすることが私はある。

私は小さい頃から、怖がりで、考えすぎで、神経質で、人目ばかり気にして、くよくよして、過去のことを思い悩み、未来のことを不安を大きくし、動けなくなって、緊張しいで、別レビュー(愛を乞う人)で書いたが、受験で失禁してしまうような、そんなひとり空回り星人であったが、大人になって、「あ、これ、全部、考え過ぎでドツボになってるわ」と気がついた。

まあ、それからはヨガや瞑想をして、何にも考えない時間を、1日に取ることで、10代~20代の思考ぐるぐるドツボからある程度、抜け出すことができた。でもここ数年は、考え過ぎて身動きできなくなった時に一番効果あるのは、疲れ果てるくらい泳ぐこと。泳ぐ時は息継ぎ=呼吸に意識を向けざるを得ないので、必然的に動的瞑想のような状態が1時間続き(大体、1.5Kmくらい泳ぐ)終わった後は、脳内の無駄な反復思考が一掃される。20代の時に色々試した自己啓発本のイロハよりも、私にとっては水泳、人によってはサーフィンやマラソンの方が、動的瞑想で効果があるような気がする。頭に無駄な雑念や思考が無くなると、目の前の自然や一つ一つの営みも色鮮やかに見えてくる。当たり前を感動できる。私は必死に思考から解放されるためにあれやこれやとやっているけど、きっとガンプは、一生を通じて、頭まっさらに、人生に起こる全てをビビッドに、生を味わったのだろう。

そんな彼の真っ直ぐな、そしてシンプルでピュアなバカ道を、私はとてつもなく尊敬の眼差しで見つめる。幸福とは、バカにある。という真理を気づかせてくれる。私は、今後の人生、どんどんバカに、どんどん赤ん坊のようになれたらいい。そんな風に感じている。きっと宮沢賢治が「雨ニモマケズ」を書いた時、そんな真理に手を伸ばしたのかなとも思う。フォレスト・ガンプ。彼はそんな存在として私たちの前に現れる。たまに彼に会いたくなる。つい忘れてしまいそうな大切なことを、もう一度思い出すために。迷ったら、ガンプであれ!そして、バカになって走り出そう!