恐怖と欲望(’53)
本来であれば、記念すべき長編第一作となるはずでしたが
「不器用で思いあがった作品になった」
と忌み嫌いキューブリック自らプリントを
すべて買占め封印してしまいます。
プリントが流失して、2012年に再公開されるまで
幻のデビュー作となっていました。
門外不出の作品を掘り起こされて、キューブリックも
あの世で、さぞご立腹のことでしょう。
ただ、永遠に封印しておくにはもったいないほどの完成度。
迷える兵士たちと覆いこむような森の姿を
陰影を効かせ、短いカット割りで緊張感を煽り
詩的なモノローグで語りかけてきます。
非情の罠(’55)
長編第一作は自ら封印してしまい
まだまだ金銭的制約があった若手監督キューブリックが
次に挑んだのは、“フィルム・ノワール”
最大の特徴でもある、光と影のコントラストはもちろん
他にも、先鋭的な演出が垣間見られます。
それが顕著に表われたのが、マネキンが立ち並ぶ倉庫内でのシーン。
無機質に並び不気味な表情をうかべるマネキン。
物陰に隠れる男の頭上に、マネキンの手がぶらんぶらんと垂れ下がる。
このような演出に更に磨きをかけて、モダン・アートに仕上げたのが
「時計じかけのオレンジ」なのではないでしょうか。