このショートショートは「偏愛」をテーマにしたとのこと(あとがきによる)。とはいえ、表題作の「ゆっくり十まで」は純愛で、素子さんらしいファンタジー。このらしさは若い頃の作風でしょうかね。15のショートショートは、いずれも、人が死ぬことはあっても、恐ろしいものはなく、新井素子ワールド。ではないものも、チラホラあるのかもしれませんが……。
短編やショートショートが書けることに気づいてしまった素子さんが、ウェブマガジンで連載していたショートショートを集めたもの。気軽に楽しめる作品集で、ショートショートらしくオチもある。そのオチと世界観は素子ワールドと考えると納得できるのですが、世の中は素子ワールドとはちょっと違うんですかね?
星新一の秘蔵っ子と言われた素子さんですが、星新一とは違う感じのものを書いています。誰だっけかが人の人生を細長い丸棒に例えて、棒一本そのものを描くのが大河小説、長く切り取ったのが長編、少し短いのが中編、とても短いのが短編。ショートショートは丸い棒を底から眺めるようなもので、人生全てが入っているようなものだと書いていた。
このショートショート集はそういうショートショートと、短い短編の混在に感じました。人生をいっぱい読むのも疲れちゃうから、これくらいが丁度良い。