[豊太郎の生い立ち]

昭和4年、豊太郎は東京都大田区蒲田に生まれました。

 工場と店を経営する裕福な家の長男で、4才下に弟がひとり。

 その当時、どんな子供時代を過ごしていたのかを知る人は
誰も居ません。

 その後に彼ら兄弟を襲った第二次世界大戦が、全てを奪って
いきました。

 豊太郎の父、万次郎は徴兵されて戦死。
 母は戦争の混乱の中で、資産を全て処分して男と二人で逃げて
しまいました。

 残された豊太郎達兄弟は、空襲警報が鳴って人々が逃げ出した
後の家から、食べ物や金目の物を盗んで暮らしていました。

 両親を失い、そうした暮らしをしていた子供が珍しくなかった時代
とはいえ、彼らの心が傷を負い、それからの人生を変えたことは
間違いありません。

 やがて、親戚に引き取られた彼らは千葉や埼玉にたらい回しに
され、終戦の混乱の中で、豊太郎はひとりで家を出ました。

 誰も信じることが出来なくなった豊太郎が、どんな青年時代を
送っていたのかはわかりません。

 親しい友人がいたということもなかったようです。

 ただ、仕事だけは真面目に続けていたことは、老後の年金生活を
見れば想像できます。

 その反面、唯一の楽しみである賭事にのめり込んでいったことも
確かでした。

…続きは次回。