昭和40年の夏。

 妻:今枝はお産婆さんを呼び、自宅で長女:晴美を出産
しました。


 検診を受け、病院の出産が既に定着し始めた頃でしたから、
自宅で出産することは、相当不安だったことでしょう。


 産後数日、実家の伊勢崎から来た今枝の母親が世話をして
ました
が…!!
 父親である豊太郎は、何故か、出産の前後数日の間、家を
開けたままでした。


 それなのに、産まれた娘の名前は誰にも相談せずに、自分
だけで
付けてしまいました。
 
 群馬県の山、上毛三山の榛名山の[榛]の字を取って榛美。

 ところが当時は[榛]が名前に使えず、気の短い豊太郎は
市役所のカウンターで口喧嘩になってしまいました。


 
 「何度言われても、駄目なものは駄目なんです」
 

「字を変えてください」

 うんざりとした表情で説得している職員に対し、普段から


「字」に接し、人一倍「字」への思い入れが強い印刷工の
豊太郎も全く引きません。

 周りには説得する職員と野次馬が数を増し、ますます声が
大きくなっていきます。
 「だったら、娘の人生に責任を持ってくれるのか!!」
 「"榛"美と"晴"美じゃ人生が変わるんだ」
 「"榛"美以外は譲らないからな。変えろと言うなら、そっちで
変えてくれ!!」


 自分勝手な理由を言い切った豊太郎は、出生届をカウンターに
叩きつけて帰ってしまいました。

 こうして、長女は晴美と名付けられました。

 実は。
 兄の■彦という名前も、親が思う名前ではありません。


 …続きは次回。