【報告】サンデル教授の「正義」論の功罪 | 格差と戦争にNO!

【報告】サンデル教授の「正義」論の功罪

グローカル座標塾第7期第1回
サンデル教授の「正義」論の功罪
宮部彰


10月22日に第7期を開講。
第1回は「サンデル教授の「正義」論の功罪」。講師は宮部彰さん。


これまでの講座は、前半が講演で、後半は討論だが、今回は講師が出した例題への賛否を聞いた後、受講者を指名して意見を聞きながら議論するスタイルで進められた。


宮部さんは、「サンデルの正義論が売れる前から正義の必要性を強調していたが、日本の政治文化なのか、違和感を表明する人が多かった。それが、サンデルがブームになったらみんなが『正義、正義』と言い出した。
 サンデル正義論の功罪についてはグローカル752号=10月1日号にまとめておいた。

文章の最後に書いた『「コミュニケーション」「比較による相対化と認識の深まり」、最後の結論はいただけないが、その検討作業のプロセスは、賞賛に値する。』というのが私のサンデル評価。サンデルが共同体性の問題性について、どれほど自覚して結論を出しているのかは疑問だ」


続いて、議論の例題として3点を挙げた。
①死刑に賛成か反対か
②2200万円の地方議員の報酬は高すぎるか
③外国人参政権に賛成か反対か

賛成か反対かとその根拠について全員で議論。


① については、2、3人から人を殺した以上、命で償うべきだというよくある意見。

反対論は、社会的な背景を考えずに死刑はおかしい。国家が人を殺すことは許されない。死刑になりたいと殺人を犯した人を死刑にすることが刑罰になるのかなど。
これに対して、あだ討ちは良いのかなどの意見も。

宮部さんからは功利主義の立場から抑止力としての死刑容認論をどう考えるのか。被害者側の報復感情、社会的環境と自己責任の問題などが指摘された。


②の問題は、イチローの高額年棒問題から連想した例題で2人が賛成。

賛成論は、議員活動をしているとそれくらいかかるのではないか。赤字を出さないように自治体を経営してくれるのなら、それくらいもらってもいいのではなどの意見。

反対論としては、「自治体議員の報酬は少なければ少ないほうがいい。アメリカも日本も少ないほうが女性議員が多くなる傾向にある」


それに対して「そうすると金持ちしか議員活動ができなくなる、良い人材が集まらなくなる」という意見に
「給料が高くても良い人材が議員に集まるということはない」と再反論も。


宮部さんは、「全国の地方議員の平均は約6百数十万円。大阪市が一番多くて政務調査費などを除くと年1700万円。米国の50万人以上の自治体議員報酬平均は500万円。日本の同規模自治体の平均は1350万円。比較して妥当なのか考えるべき。

日本の平均給与は約420万円。自治体議員の平均は約6百数十万。日本の公務員の平均年収は7百数十万。
資本金20億円以上の大企業の平均給与は630万円。これはパートも含むから、男の平均では720万円、女は330万円。これらを比較して、妥当なのか。
ただ、日本では議員になると仕事をやめなければならない場合が多い」


白川さんは「議員経験者は議員は平均10年くらいで退職金がないからと報酬が高いのを正当化する」
宮部さんは「欧州型のボランティア的議員が理想。それに近づける努力をすべき」

受講者からは「制度改正が意図した通りが効果を生むとは限らない。直接民主主義を導入したら、生活のために働かなければならない貧乏人は政治に関わっている時間がない。政治参加への貧富格差が逆に正当化される」と反論。


そして、能力と責任の重さで給料に格差があるのは正当だという現在の考え方は正しいのかという点から議論が行われた。
「生きがいがある仕事をしている人ほど給料を安くして、嫌だけど必要な仕事ほど給料を高くすべきだ」「議員としての活動よりも、選挙が議員の一番の活動になっている」

宮部さんは「『優秀な人材を確保する』ためには高い給与というのは功利主義」「公共的観点がない人が2000万円ももらうのはおかしいという批判は“美徳”の立場」「私は普遍的人権という立場なので、最低限の生活が保障される報酬ならばいいと思う」