【転載】宮下公園封鎖に抗議声明 | 格差と戦争にNO!

【転載】宮下公園封鎖に抗議声明

【抗議声明書】


2010年9月17日

渋谷区長桑原 敏武様


 宮下公園における野宿者に対する暴力的強制排除に断乎抗議し、即時公園封鎖を解除し、排除を中止することを求める要求書


 寄せ場野宿者運動全国懇談会


【要求の趣旨】


 貴庁は本年9月15日早朝、法に定められた手続に反して、宮下公園のテント等に居住する人々を多数の職員・警備員等の実力を用いて強制的括暴力的に排除した上で、同公園を封鎖し、テント所有者らが一歩も公園に立ち入りできず、テントに全く接近できない状況を作りながら、「渋谷区公告第161号」によ
り、都市公園法第6条1項に違反するとの理由で、2010年9月18日正午までにテント等の物件を「所有者等の費用で除却すること」を命じた。


 これら一連の貴庁の行為は、法定める手続を無視し、野宿する人々の生命を危険に曝し、その尊厳を踏みつけにする重大な違法行為であり、非人道的な暴挙であって、決して許すことができないものであり、厳しく糾弾するものである。よって、ここに排除手続を即時中止し、宮下公園の封鎖を解除し、公園内において起居していた野宿者等ら物件所有者に対して謝罪することを断乎として要求する。



【要求の理由】


(1) 本件排除行為は重大な人権侵害であり、法律による行政、法の支配を真っ向から否定するあからさまな違法行為である。また、都市公園法27条3項の規定に基づく公告をとったことそれ自体の違法性など法定手続に違反している。


 「渋谷区公告第161号」は都市公園法第27条3項の規定により、所有者等に自己の費用で物件等の撤去を命じている。


 都市公園法27条1項は、公園管理者は、「この法律(前条を除く。以下この号において同じ。)若しくはこの法律に基づく政令の規定又はこの法律の規定に基づく処分に違反している者」(同項1号)などに対して、「この法律の規定によつてした許可を取り消し、その効力を停止し、若しくはその条件を変更し、又は行為若しくは工事の中止、都市公園に存する工作物その他の物件若しくは施設(以下この条において「工作物等」という。)の改築、移転若しくは除却、当該工作物等により生ずべき損害を予防するため必要な施設をすること、若しくは都市公園を原状に回復することを命ずることができる」と定めている。

 公園管理者の許可を受けず法に違反して物件を設置している者に対する物件除却命令であっても、行政による不利益処分であり、行政手続法13条1項2号の定めにより、物件設置者に対する「弁明機会の付与」を行わねばならない。弁明機会の付与なく、行われた命令は違法であり、従う義務はない。

 これに対して、今回、渋谷区が行った「公告」は、27条3項によるものとされている。同項は、1項の規定により「必要な措置を命じようとする場合において、過失がなくてその措置を命ぜられるべき者を確知することができないときは、公園管理者は、その措置を自ら行い、又はその命じた者若しくは委任した者に行わせることができる。この場合においては、相当の期限を定めて、その措置を行うべき旨及びその期限までにその措置を行わないときは、公園管理者又はその命じた者若しくは委任した者がその措置を行うべき旨をあらかじめ公告しなければならない」と定めている。


 しかし、1の事実により明らかに物件所有者を特定することができたにも関わらず、あえて「過失がなくしてその措置を命ぜられるべき者を確知することができないとき」にのみ許される27条3項規定の「公告」手続をとったのは、明らかに違法である。渋谷区は「過失がなくしてその措置を命ぜられるべき者を確知すること」ができなかったどころか、「過失がなくしてその措置を命ぜられるべき者」であるテント所有者を明確に知りながら、あえて3項の公告手続をとったのは、行政手続法13条1項2号規定の「弁明機会の付与」を回避しようとした、意図的なものであるといわざるを得ない。これは、渋谷区が公園居住者等を平等な尊敬と配慮を求められるべき市民として尊重し、話し合おうとする姿勢を一切欠いていることの証左である。


 いずれにせよ、渋谷区は、自らが撤去を命じている物件所有者を明確に知っていたのであるから、27条3項の「公告」を行うことはできず、行政手続法1項2号の規定により物件所有者に対して弁明機会を付与する義務を負うことは明らかである。


 法の手続を敢えて無視し、あるいはねじ曲げて暴力的な排除を正当化しようとする渋谷区の姿勢は厳しく糾弾されるべきものである。


 また、9月18日正午までに所有者自身の負担で物件を除却せよと命じておきながら、フェンスで公園を囲い、所有者が自己の所有物に自由に接近することさえ許さないのは、明らかに「渋谷区公告第161号」自体に重大な矛盾があり、本公告が違法であるのは明白である。


(2) 公園において起居する野宿者を強制的に排除し、居住場所を暴力的に奪い生命の危機に陥れたことは決して許されない。


 そもそもホームレスの自立の支援等に関する特別措置法によれば、都市公園を「故なく起居の場所とし、日常生活を営んでいる者」つまり、都市公園法6条1項に違反しテントなどの物件を設置している者に対しても、都市公園法所定及び行政代執行の手続により、一方的に退去させ、住宅として利用しているテント等の物件を撤去することは許されないものである。


 ホームレス自立支援特措法11条は、「都市公園その他の公共の用に供する施設を管理する者は、当該施設をホームレスが起居の場所とすることによりその適正な利用が妨げられているときは、ホームレスの自立の支援等に関する施策との連携を図りつつ、法令の規定に基づき、当該施設の適正な利用を確保するために必要な措置をとるものとする。」と定めている。つまり、仮に野宿者が公園内に占用権原無くテントを建て故なく起居していることによって、公園の適正な利用が妨げられる場合であっても、「ホームレスの自立の支援等に関する施策との連携を図りつつ、法令の規定に基づ」くことなく、退去強制や物件撤去をなすことは許されないのである。


 また、「ホームレスの自立支援等に関する東京都実施計画(第2次)」(2009年10月)も、「(10) 地域における生活環境の改善」に「○ ホームレスが公共施設を起居の場所としていることにより、その適正な利用が妨げられている場合、都は公共施設の管理者とともに、福祉部局等の関係機関と一層緊密な連携を図った上で、ホームレスの人権に配慮し、法令等の規定に従って、以下の措置を講ずることとします。(都) / ・ 管理する公共施設内の巡視・警備の強化、物件の撤去指導等(新規流入・再流入の防止)/・ 前記のほか、必要と認める場合には法令の規定に基づき監督処分等の必要な措置」と定め、特措法11条の趣旨をより鮮明にし、公園管理者に対して「ホームレスの人権に配慮」することを厳しく命じたものである。


 自立の支援策との連携とは何かといえば、特措法3条1項1号が規定する「安定した雇用の場の確保、職業能力の開発等による就業の機会の確保、住宅への入居の支援等による安定した居住の場所の確保」を先ず行うことであり、この責務を果たさず、退去強制や物件撤去命令を下すことは許されないのである。適切な住居を喪失し、やむなく公園にテントを建てて居住し、必死に自己の生命を守ろうと努めている野宿者から住居を奪い、その生命を危険にさらすことは、明らかにホームレスの人々の人権を侵害するものである。いわんや、「公告」以前に身体に対する物理的強制を加えて、排除することなど、決して許されるものではなく、法の執行ではなく、あからさまな暴力、犯罪行為であるというべきである。

 ところが、渋谷区公園課長は、9月15日に早朝に、同課長の指揮命令を受けた職員・警備員等により、起居するテントから引き離され、公園から強制的に排除されることにより、住居を失った当事者(公告によって命令された所有者である)が、住居を奪ったことに抗議したことに対して、「自分で探せ」と言い放った。法に定められた自己の義務を顧みず、平然と法の手続を無視し、市民の住居を奪い、生命を危機にさらしながら、平然とした厚顔無恥な姿勢は、もはや法の委任をうけ、行政を担う者としての自覚のかけらもまったくないものといわざるを得ない。


 貴庁は、憲法及び法律に基づき、人々の人権を保障し、人間としての尊厳を守るべき本来の職責を想起し、ただちに宮下公園において行っている重大な人権侵害、違法行為を中止し、被害者に対して誠実に謝罪することを改めて強く要求する。
 以上