【報告】元運航乗務員からみたフェデックス事故
成田プロジェクト学習会
元運航乗務員からみたフェデックス事故
5月27日「元運航乗務員からみたフェデックス事故」が行われた。
主催は成田プロジェクト。三月二三日に成田空港A滑走路で発生し、乗員二人が死亡した米フェデラルエクスプレス機炎上事故を取り上げた。
講師は村中哲也さん(元航空連副議長・元全日空運航乗務員)。フェデックス事故の直接の原因がまだ分からないことを断った上で事故の背景について述べた。
村中哲也さんの報告
「航空機事故に関しては、クリティカル・イレブン・ミニットと言われ、離陸時三分、着陸時八分に事故が多いことが指摘されている。これは統計だけで、あまり意味がない。
飛行機は高い高度で高速飛行しているときが力学的に安定している。高速でも低速でも安定している飛行機は無理。
3月23日の事故の原因はウインド・シアとされており、放映された映像を見るとウインド・シアに起因しているように見える。ウインド・シアで事故が起きるのは向かい風だったのが、突然やむ。そうすると揚力が下がり、飛行機は墜落する。ウインド・シアはどこでも起こる。成田空港だけでなく、上空はウインド・シアだらけ。だから、空港は発生しても被害が拡大しない設計にしないといけない。乗務員にとって成田より大変な空港としては、花巻空港などがある。香港啓徳空港は滑走路の正面が崖で右が管制塔、左にアパートがある空港だった。
風速についての規制は空港ごとにある。古いタイプの管制塔では、強風で管制塔が揺れて管制業務ができず管制官が避難したこともある。
事故機のMD11型機は0.2秒ぐらいの操縦の遅れが生じオーバーコントロールが発生しやすい欠陥があるといわれている。
一応、航空機はエンジンがひとつ止まっても大丈夫なように設計されている。だが、右エンジンが脱落したときにケーブルを切断し、墜落した事故もある。障害物は被害拡大の原因となる。
先日も、ロス空港でコンテナ吸い込み事故が起きた。ロス空港は狭く、滑走路間の距離も近い。設計時からそういう事故がおきやすい。だから、設計思想からそういう事態が起きないような設計にしなければいけない。ロス空港は市営空港で、前の飛行機が見えれば着陸許可。着陸便数を増やすほど、市に着陸料が入るから。
航空機事故の背景として、経済優先による安全軽視。省力化による訓練減少などがある。飛行機は頭のほうが重い。燃料を消費すると重心が前に来る。空気の流れ場なければ落ちるだけ。成田以外にも花巻や鹿児島などは、もっと危険な空港がある。
今の航空機は航空法の規定する量の航空燃料を積んでない。トラブルが起きて上空で待機する事態などを想定し、航空法の規定燃料は平均的な必要量の倍。現実には、米国から来る航空機は第一目的地を新千歳として飛行。千歳上空で残燃料を計算し直して、飛べる燃料が残っていれば成田まで飛行する形で運行されている。格安航空会社は、第一目標をアンカレッジとし、その上空で残燃料を計算して新千歳上空に飛び、そこで燃料が残っていれば成田まで飛ぶ形で着いたとき、燃料はほとんど残っていない。そういう余裕がない運行が行われている。
根源に不平等条約
空港が造られる背景には国の空港整備特別会計がある。特別会計は五年で決算することになっているので、税金などをたくさん徴収し運賃に上乗せされる。三十から五十年で決算するのなら、もっと安くできる。そういう税財政の仕組みになっているから、成田の発着便の八割以上がジャンボ機になっている。
航空乗務員から見て羽田空港の沖合移転は問題。D滑走路が供用されるが、羽田の三本の滑走路の一本は駐機場に使っている。羽田拡張をめぐっては周辺住民との間で摩擦があり、運輸省と東知事が協定を結んだ。滑走路の角度についても取り決め、騒音遮断壁を設けるなどしてきた経過がある。
空港は周辺地域と共存し、周辺を繁栄させなければならない。昔、羽田空港の周辺は宿屋、商店、食堂が繁栄していた。国際線の成田移転でいくつも倒産した。鹿児島空港は元地主の農家を作業員・警備員として雇ったが、五年で首にした。恥ずかしいことだ。
国際線が成田に移る一方、羽田の拡張も進められ、羽田空港の面積は四倍になった。東京湾の航路で大型船がぎりぎりすれ違えるまで拡張された。
成田空港に関していうと、航空乗務員としては周辺住民と摩擦が起きると困る。大阪(伊丹)空港だと二一時までしか離発着できない。だから、着陸しようとして午後九時に間に合わなくて着陸できないこともあった。そういうことでは困る。周辺住民と摩擦を起こさないというのが空港建設の思想に入っていないといけない。
パイロットとしての考えは、成田で横風滑走路は必要がないが、一本は困るというもの。ただ、2500メートルに延伸しても国内向けでジャンボ機は飛べない。了解なしで着工し使用している問題。
成田空港は、乗務員として周辺住民とのトラブルが残り、飛行機のタイヤが焼かれたりしたら大変。だから、掛け違えたボタンは直してほしい。成田の誘導路はわかりにくく、外国人の評価は低い。外国の空港では間違わせないための安全対策が徹底している。
成田空港の20万回の発着回数を30万回にしようするのには問題がある。成田の発着回数増加要求の背景にあるのは日米航空協定。日米航空協定はアメリカに一方的に与えすぎている不平等条約。アメリカに別の空港にしろというべきだ。英仏のように、協定を破棄する、こちらから行かないからそっちもくるなというくらいの態度が必要だ。アメリカの一方的な増便要求を飲む必要がない。」
村中さんの報告を受けて、大野和興さんの司会で参加者の間で質疑応答した。空港のあり方、発着間隔、航空協定の問題について討論した。
東峰現地から参加した平野さんは事故当時の模様を報告した。