大江・岩波裁判を支援し沖縄戦の真実を広める首都圏の会結成

大江・岩波裁判支援首都圏の会
6月6日、大江・岩波沖縄戦裁判を支援し沖縄の真実を広める首都圏の会結成総会が都内で開かれ、150人が参加した。3月30日に公表された高校教科書検定で、文科省は沖縄戦での日本軍による住民虐殺・「集団自決」に関する記述を削除させた。
大江・岩波沖縄戦裁判は、大阪在住の座間味島戦隊長・梅澤裕と渡嘉敷島戦隊長の弟・赤松秀一が岩波書店と『沖縄ノート』著者大江健三郎を訴えたもの。その内容は家永三郎『太平洋戦争』、中野好夫・新崎盛暉『沖縄問題二十年』、大江健三郎『沖縄ノート』が集団自決は守備隊長が命じたと記述して原告らの名誉を毀損したという内容(『沖縄問題二十年』については昨年九月訴え取り下げ)。右翼・歴史修正主義勢力は「沖縄集団自決冤罪訴訟を支援する会」を結成。『日本の名誉を守り、子どもたちを自虐的な歴史認識から解放して、事実に基づく健全な国民の常識を取り戻す国民運動』を展開してきた。
文科省の教科書検定資料では、裁判について「沖縄集団自決冤罪訴訟」という原告側のみが使用している右翼用語で書かれており、文科省がいかに偏った立場から検定を行っているかを浮き彫りにしている。
集会で、俵義文さん(教科書ネット)は下村博文官房副長官が安倍政権成立直前の昨年夏、「自虐史観の教科書を官邸チェックで改めさせる」と発言していることを指摘。判決すら出ていない裁判での一方の主張による今回の検定は、これまでと比較しても異常であり、外部からの圧力・介入があったと思わざるを得ないと指摘した。
岡本厚さん(『世界』編集長)が大江・岩波沖縄戦裁判について報告。
「この裁判はあまり知られていなかったが、今回の検定で公的問題になった。沖縄では首長の九七%が今回の検定に反対している。
『沖縄ノート』では渡嘉敷について隊長が集団自決を命じたとは書いてないし、隊長の個人名は挙げていない。座間味についてはそもそもふれていない。
なぜ彼らは裁判を起こしたのか。岩波書店とノーベル賞作家を訴えるという劇場効果をねらってきたのだろう。提訴した時点で、目的を達したとも言える。彼らの側が訴えるという完全に逆転した裁判。歴史観が問われている。
原告側の主張は、命令などなくても住民はお国のために死んでいったという殉国思想。援護法の適用を受けるために村人は嘘をついたと。
沖縄戦後の米軍の住民への尋問内容を見ても、沖縄戦では軍官民の共生共死が強制された。米軍が上陸すれば女性は強姦され、住民も殺されると軍は繰り返した。そのような全体の構造の中で『集団自決』が強いられた。
最近の裁判で原告側は村人が軍の命令だと認識していたことは認めた。だが、助役や兵務主任が勝手に言ったことだという主張になった。
これまでの教科書で隊長命令で集団自決が起きたと書いていた教科書はない。ところが、今回の検定は裁判の判決もでないうちに一方の主張に沿って、日本軍の命令はなかったとした。一歩も三歩も進んだ検定。仲井真知事も今回の検定を批判している。
推測だが、今回の検定は上のレベルで決定されたものだと思う。安倍政権の意志の反映だ。自由主義史観研究会は、我々は十年かけて慰安婦という言葉を消した。次は沖縄だと言っている。
日本軍は住民を守らなかった。壕から追い出し、食糧を奪い、『集団自決』を命令した。この沖縄戦の教訓から生まれた『命どぅ宝』の思想を改憲、教基法改悪、集団自衛権行使へと進む彼らはひっくり返そうとしている」
次に、石原昌家さん(沖縄国際大学教授)が講演「操作されつづける『沖縄戦認識』-経過と背景」。沖縄戦の歴史歪曲が有事法制と密接に連動していることを指摘した。
「1952年軍人恩給が復活すると、沖縄で適用運動が起き、53年から適用を開始した。やがて、中学生徒・ひめゆり学徒、一般住民が準軍属とされ、適用が拡大されていった。厚生省は二十類型を定めており、壕提供・食糧提供と並び集団自決がある。50~60年代には日本軍に沖縄住民がいかに協力したかという靖国の視座による沖縄戦認識が一般的になった。こうして、ゼロ歳児までが『準軍属』として靖国に祀られている。この事実は沖縄でもあまり認識されていない。
69年沖縄県史が出版され、集落ごとの戦争体験が記録されていった。この過程で壕提供の実態が乳幼児の絞殺・毒殺、軍による壕から追い出しであることが明らかになった。日本軍の指示・強制の過程はきちんと書かれている。私も70年から聞き取りに参加したが、靖国の視座から反靖国に変わった。
82年、検定で住民虐殺に関する記述が削られ、抗議で文部省は記述を認めた。だが、家永三郎は検定で『集団自決』という言葉を加筆させられ、裁判を起こした。
集団自決という言葉を65年に最初に使った琉球新報の記者も『集団自決という言葉はまずかった』と言っている。現在の沖縄平和資料館は『強制集団死』という言葉を使っている。
この問題は有事法制と関係がある。軍民一体意識形成のためには沖縄戦をマボロシ化しなければならないからだ。軍事優先で日本軍が住民を殺したり、死に追いやった事実は有事法制実働化の障害。
第一次家永教科書裁判を提訴した65年、三矢研究が明らかになった。
82年教科書検定での沖縄戦住民虐殺削除の前には栗栖・超法規発言があった。栗栖元統幕議長は、著書で自衛隊は天皇を中心とする国家を守るので住民を守るものではないと書いている。
03年六月有事法制が成立すると、小林よしのりらが沖縄戦に関するキャンペーンを開始。8月に裁判が提訴された。『集団自決』という用語を使ってきた隙を突かれたと言える。
訴訟で気が気でないのは厚労省と沖縄県遺族会。『集団自決』の軍命がなかったとなれば援護法システムが崩れる。50年代から厚生省は軍命を立証し、靖国神社に合祀してきた。
『集団自決』という言葉は靖国思想だが、援護法適用を受けている遺族の中には『集団自決という言葉でないと証言しない』という人もいる。靖国合祀は国家的名誉と経済的援助。だから、彼らにとって『集団自決』でなければならない。
原告は訴えた時点で一定の成果。教科書記述削除で大成功だろう。
だから、私たちは沖縄戦の真実を本当の意味でとらえかえし、書き換えをくいとめよう。これまでの教科書記述そのものがまずい。『集団自決』加筆の検定に対して提訴した家永教科書訴訟の提起はなんだったのか。改めて整理し再構築を」
続いて、大阪支援連絡会と首都圏の会事務局が発言。活動方針として沖縄・大阪との連携、裁判支援、沖縄戦の真実と沖縄の現状を広く知らせていくことが提案された。