口封じに処刑されたサダム・フセイン
口封じに処刑されたサダム・フセイン
ブッシュの「犯罪」隠蔽のためのお手盛り裁判
06年12月30日、イラクの前大統領サダム・フセインが処刑された。死刑判決からわずか4日後。イスラム教スンニ派の祝日の初日(シーア派にとって前日)に処刑という非人道的なものだった。
イラクを占領するブッシュは、直ちに「公正だった」と処刑を正当化した。
アメリカはイラク側の要求で身柄を引き渡したとしているが、そもそも国際法を無視してイラクを侵略し、フセインの身柄を拘束したのは米ブッシュ政権だ。「裁判」開始後もフセインの身柄は米軍が拘束し続けた。
特別法廷自体、アメリカがつくったお手盛り。途中で裁判長が政治的な圧力で辞任するなど、フセイン裁判の実態は公正中立とは程遠いものだった。米が、国際法廷にしなかったのは、米軍の戦争犯罪の実態が審理の中で明らかにされるのを恐れたからである。(公正の装いをとることができないほど戦争犯罪を重ねていることを認めているようなものだ。)
しかも、その後の絞首刑執行時のビデオ流出で、処刑自体がシーア派によるフセインに対する私刑(リンチ)と見ざるを得ないような状況だったことが明らかになった。
フセイン処刑によって、イラクの内戦は解決するどころかはますます悪化している。ブッシュは「一時的な増派」と称して占領軍を拡大しようとしている。
なぜフセインの処刑を急いだのか。公正な裁判ならば、フセインの犯罪を可能な限り明らかにするものでなければならない。
フセインは、一つの訴因(82年シーア派住民虐殺事件)だけで死刑判決を受けた。80年代末のクルド人弾圧事件でも起訴されていたが、その判決すら待たずに死刑執行され、裁判は打ち切られた。クルド人に化学兵器を使用したハラブジャ事件、クウェート侵攻などは起訴さえされていない。
処刑でフセイン独裁政権による犯罪の解明は困難になった。このフセインの「口封じ」こそが早期執行の狙いだったのだ。
先代ブッシュ政権は、イスラム革命を阻止するために、イランイラク戦争でフセイン政権に15億ドル以上の武器を売却し偵察衛星情報を提供。化学兵器使用にも目をつぶった。こうして、イラクは地域軍事大国になった。クウェート侵攻は、米大使がゴーサインを出してフセインをはめたという疑惑も指摘されている。フセインの戦争犯罪と人道に対する罪は、アメリカの支援があって可能だったのだ。
早期執行への経緯を見れば、事実関係が明らかになるのを恐れたブッシュ政権の意向によるものであることを示している。
多くの国が処刑を批判する中、安倍晋三は処刑を容認する姿勢を示した。
先進国で例外的に死刑を執行し続けている二カ国(日米)は、「大量破壊兵器」という開戦の口実が完全な嘘であることが明らかになってからも、イラク占領を続けている数少ない国だ。航空自衛隊が米軍支援を拡大している。
これ以上、イラク戦争・占領を拡大すべきではない。全ての占領軍はイラクから出て行け!