似非地球物理学者の嘘を暴く | PygmalionZのブログ

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最近3.11人工地震陰謀説を唱える陰謀論者の方の論拠の一つとして、地球科学を学んだことのない似非地震学者のB級理論を持ち出すものが現れた。本ブログではそのB級ぶりを徹底的に解説する。


先ずはその論拠に用いられている動画のURLを示す。


URL http://www.youtube.com/watch?v=cT5POrhpNeQ&feature=share


この動画の方、この方は土木工学が専門の工学博士なのに現在独自理論を基に地震科学研究所なるものを運営されている。


ではそのB級ぶりをご紹介する。




1.「プレートテクトニクスは間違っている」の誤り。


■その1 プレートは弾性体
この方はプレートテクトニクスでいうプレートは剛体(硬くて変形しないもの)ということを前提としていて剛体だから一体となって動くとしているが、これは誤りでプレートは弾性体(変形、復元可能なもの)。プレートは鉱物で構成される固体であるが地質学的スケールの時間的空間的性質としては弾性体である。


この方は工学的知見からプレートは硬い岩石で構成されているので剛体と考えたのだろうが、それは工学が短い時間スケールしか扱わないからそう思えるだけのことで、地球科学ではプレート運動は数万年~数億年など長い時間スケールで考える。こうした長い時間スケールではプレートは弾性体として振舞う。今役に立つものを生み出すための工学の知識では考えも及ばない事だ。


■その2 ロッコール海台は大陸棚の一部が分離したものとも考えられる。
この方はイギリスの西の大西洋にあるロッコール海台で5.4億年前の地層が見つかったことでプレートテクトニクスに基づき拡大する海洋プレートの寿命は2億年程度、プレートテクトニクスは破綻していると述べているが、ロッコール海台は大陸棚の一部が分離したものとの解釈も成り立つ。一概にプレートテクトニクスの反証とすることは出来ない。


■その3 エルタニン断裂帯の層構造とヒマラヤの地層は成因が違う。プレートテクトニクスに矛盾しない。
この方は南太平洋の海嶺にある富士山より巨大な斜面であるエルタニン断裂帯のボーリング調査でヒマラヤのイエローバンドの様な地層が見つかったことは陸地も海の底も同じ地形が見られるということで、プレートが一体となって移動しているというプレートテクトニクスと矛盾すると言っている。
これは2つの誤りを重ねている。


一つ目は地層の構成の違い。提示されているエルタニン断裂帯の地層を構成している物は鉱物である。この断裂帯は異なる鉱物が層をなしていて、これはプレートテクトニクスと矛盾しない。海嶺は火山であり溶岩の噴出を伴う。こうした火山活動により層状構造が形成されたもの。断裂帯の層状構造を大陸地殻である大陸棚などの浅海で堆積層として形成されたヒマラヤのイエローバンド(変成石灰岩)と混同している。


また断裂帯の頂きに白亜紀の礁性石灰岩が在るという事は検証すべき事実と思われるが、海洋底の拡大速度の変化や連続性などを調べる事で説明がつくと思われる。


二つ目はエルタニン断裂帯が存在すること自体がプレートテクトニクスの証拠の一つと言うことを分かっていないことである。この断裂帯はトランスフォーム断層と呼ばれる海嶺軸に直交する断層で、これは海嶺の中軸谷を中心としたプレートの拡大運動で中軸谷がずれる事により形成される。カリフォルニアに大地震をもたらしたサンアンドレアス断層はトランスフォーム断層が地表に現れたものである。




2.地震水素爆発説の誤り


■マグマ溜まりの形成の説明が無い。
この方はマグマ溜まりに水が在ると水が熱解離を起し、酸素分子と水素分子が生成されそれが溜まって水素爆発を起こすと言っているが、マグマ溜まりがどうして形成されるのか説明していない。
この方はマントルは液体としているので「マントル=マグマ」と考えているのだろう。ではマグマが地殻まで上昇する理由は何だろう?説明できない。


やはりプレートテクトニクが無ければマグマ溜まり形成要因の説明が出来ない。
プレートテクトニクスでは沈み込んだ海洋プレートが含む水が上部マントルに接触することでマントルの融点が下がりマグマが形成される。液状のマグマはマントルより比重が軽いため浮力で上昇する。「マントル=マグマ」なら成り立たない。


■定性的議論で構成し、エネルギー量の計算がない。
この方は3.11のエネルギー量に匹敵する水の量がどの位で、それが深さ24kmの地中でどこから供給されるのか説明していない。定性的議論のみで論理を展開している。



■爆発と同時に爆縮が起きる件の説明ができていない。



この方は地震波で一般的に見られるP波の立ち上がりの押し引きが4象限の形で現れる説明として、水素ガス着火時に一旦体積が縮む爆縮が起き、その時ガスの高圧で支えられていた周囲の弱い部分が破壊されその後、爆発で膨張を始めるとしている。しかも引き領域は4象限でなく4象限風に円錐を2つのを頂点で合わせた形になると。動画ではこのことが説明されていなかったが、この方の以下のHPにあった。



この方の地震波の押し引の説明 http://www.ailab7.com/Cgi-bin/sunbbs/index.html


これも知識不足の成せる技。地震波による震源での発震機構(断層のずれ方)を調べる際に複数の観測点のP波の立ち上がりの3次元成分から押し引きの様子を分析すると断層のずれた方向や角度などの断層パラメーターが得られる。



CMT解参考URL http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%99%BA%E9%9C%87%E6%A9%9F%E6%A7%8B


この方の言うような過程で地震が発生するのなら最初に等方収縮が起きるのでP波の初動から導かれる解は全て引き波となるはず。

第一この方の言う所の円錐を2つのを頂点で合わせた形の引き領域の説明にならないし、円錐を2つのを頂点で合わせた形である事自体が観測と異なる。

地震が断層平面状のズレによって起こる事で押し/引き/押し/引きの4象限が説明できる。


更にこの方は[2H2+O2→2H2O+熱]で体積が縮む爆縮が起きるとしているが、この過程は通常の水素ガスと酸素ガスの燃焼である。それならば通常の水素ガスの爆発は存在しないことになるが事実は爆発する。

多分この方はこの反応で3つの分子が2つになるのだからアボガドロの法則からして体積が減ると考えたのだろうがこの反応では熱が発生するためボイル=シャルルの法則[PV=nRT]により体積または圧力が上昇する。
だから水素ガスに引火すると爆発する。化学式だけ見て事実を見ないとこんな誤りをする。
もう一つおかしいのは爆縮っていう言葉の定義を間違っているところだ。
爆縮とは爆発という膨張現象を利用して内圧を爆発的に高めることを言う。水爆の原理で、核分裂により爆縮を起して極めて高温高圧状態を作りだし、2重水素、3重水素を核融合させるのに使われている。




3.地球科学的知識の不足



■マントルは液体ではない。

この方は常温常圧での常識を基に高温なマントルはドロドロに溶けていると言っているが、それであればマントル中を横波であるS波は通過できない。しかしながら実際の地震波の観測ではマントルを通過するS波は普通に観測される。またS波は震源から103度より先には伝搬しないことが知られている。これは103度以降はマントルより深部の液体の鉄で構成される外核をS波が通過できないからだ。



この方の以下のHPの地震波伝搬の説明図をみるとリソスフェアの底部で反射を繰り返す地震波が理由もなく103度で止まっている。これは単にご都合主義でこれまで知られている事実に合わせたもの。

この方の地震波伝搬の説明 http://www.ailab7.com/mohoro2.html

さらにこの中でこの方はマントルが液体で対流していないと地磁気が生まれないと言ってるが、地球科学では一般にマントルのより深部の液状の鉄でできた外核が対流して地磁気が発生するとされている。マントルが固体でも問題はない。



また、マントルの主成分であるカンラン岩の地上における高温高圧実験ではマントルの存在する深さと同じ温度圧力条件でカンラン岩が固体であることは立証済みである。



参考URL http://www.titech.ac.jp/file/110425_hirose.pdf



因みにマントルは固体だが一つの結晶構造で結ばれた剛体ではない。極めてゆっくりではあるが対流している。地質学的時間スケールで見ると流体として振舞う。それでも固体である。



■拙い我流理論で東海地震は心配無いと講演するとは言語道断。
この方はこれまでに述べた拙い我流理論により東海地震は心配ないと言っている。根拠はプレートテクトニクスなど存在しないということだが、地震発生危険度は過去の史実を丹念に積み上げて、発生の周期性を調べ上げた上で決められている。プレートテクトニクスは補強材料でしかない。特に南海トラフ沿いに発生する東海地震、東南海地震、南海地震は過去の記録も多く、その周期やこれら3つが連動して発生することが多いことが知られている。


参考URL http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%B1%E6%B5%B7%E5%9C%B0%E9%9C%87

残念ながら地震は破壊現象なので発生するタイミングを予測するのは困難であるが、日本においては確実に起きるもの。心配し過ぎはいないないがそのことだけは心に留め、いざという時の備えをしてしかないない。


さらにこの方は日本のようなマグマが浅いと場所にあるところでCO2を地中に注入すると地震になると言っている。根拠は地下に高圧で水を注入することで小規模な地震が発生することが確かめられていることである。地下水の溜まった地下にCO2を注入すると注入した場所にある地下水がマグマのあるところまで押し込められて熱解離による水素爆発が起きるというのだ。


これはこの方の拙い我流理論が正しいと仮定した場合の話であり、それでもマグマがどの程度の深さにあるのかの説明もない。およそ科学とは呼べないB級理論である。


それにしてもこの方、よくネタを拾っているわ。さすが工学博士だけの事はある。それはだけは感心する。
しかしながらここまで突っ込みが入ったら、卒論なら間違いなく不合格だな。