・短すぎる刑期
 
死刑制度が撤廃され未来を舞台に語られる、奇妙な物語。
冒頭、1人の男が警察に捕まります。罪状は殺人。それも7人も殺した、極悪な男。
当然重い判決が下されるはずかと思いきや、彼に下された判決はたったの懲役30日というもの。
 
裁判を終えた彼は刑務所にて様々な検査を受け、最後に注射を打たれます。
少し眠たくなるかもしれません。医師にそう告げられ微睡む中、男が最後に目にした時計はちょうど《4時》を指していました。
 
 
・過酷な30日
 
目を覚ました男を待っていたものは甘い認識を粉々に打ち砕くもの。炎天下で日没まで屋上に立ち続ける。それが彼に課せられた懲役でした。
 
水を与えられず、看守が水を美味しそうに飲む姿に、ただただ生唾を飲み込むのみ。
そんなものを履いていては暑いだろうと靴を脱がされては熱した地面に足裏を焼かれ、汗をかいて塩分が不足しただろうと灼けた肌に塩を塗りこまれ痛みに悶える。
ネックレスをプレゼントしてやろうと首に括られた濡れた革紐に、乾くほど容赦なく首を締め付けられる。
そんな拷問を受け続けます。
 
覚えてやがれ。出所したら必ず復讐してやるからな。
そう看守に毒吐きながら壁に日付のカウントをつけ、自らを慰め耐え続けたのでした。
 
そして、ついに最終日。
 
 
・執行される刑
 
男が連れてこられたのはいつもの屋上ではなく、とある一室。
置かれた椅子に拘束されて、頭には器具が取り付けられます。
それは罪人を処理するためのもの。電気椅子でした。
 
死刑されてしまうのだと気が付いた男は必死に訴えます。死刑は法律で禁止されている。俺が刑務所から出て来なければ仲間が黙っちゃいないと。
看守は鼻で笑います。心底バカにするように。
 
「常識で考えてみろよ。7人も殺しておいて、どうして30日の懲役で済むんだ?そんな国がどこにある。」
 
看守は告げます。懲役30日は死刑の隠語であること。出所後に姿をくらませる受刑者は珍しくないこと。そして、男の身体はすぐに溶かされ、証拠は一切残らないことを。
男は必死に命乞いをしました。殺さないでくれ。なんでもするからやめてくれと。
しかしそんなものが聞き入れられるはずもなく、看守は男を嘲笑いながら電気椅子のレバーを握りそして……。
 
――ガシャン――
 
刑は執行されたのでした。
 
 
・真の刑罰
 
気が付くと男は、最初に連れられた医務室のベッドに拘束されていました。
彼は生きていることに安堵し、傍らに立つ医師に懇願します。俺の懲役は終わったのだから解放してくれと。
しかしそんな男に医師は、驚くべきことを告げるのでした。
 
「君がここへ来てまだ、5分しか経っていない。」
 
何をわけのわからないことを……。そう思い男が目を向けた時計が指す時刻は《4時5分》
驚愕する男に医師は言います。君は薬によって眠らされ、特殊な装置により5分で30日分の仮想の体験させられたに過ぎないのだと。
 
現実での5分が、彼にとっては30日。1時間が1年。1日が24年。
つまり懲役30日とは、彼にとって……。
医師は怪しく笑います。薬品の入った注射を手にとって。
 
「さぁ、先を続けようか。君にはあと……」
「29日と23時間、55分の懲役が残ってる」
 
部屋に絶叫が響きました。
 
 
・エピローグ
 
30日後、刑務所の前に佇む1人の女。彼女は男の恋人。男が出所するのを今か今かと待ちわびます。
そして開かれた門。女は顔を一瞬綻ばせますが、出てきたのは痩せこけた老人のような男。
なんだ別人か。女は肩を落とします。そして、出てきた人物が通り過ぎるのを横目に、男が出てくるのを待ち続けるのでした。
 
すれ違った人物こそが、自分の恋人の成れの果てだと気が付かずに。
 
 
 
 
受刑者役の三上博史さんや看守役の松重豊さんの演技も素晴らしいですが、医師役の手塚とおるさんの怪演よな。不気味な雰囲気が漂っていて背筋が凍ります。
 
時間が歪むホラー好き。元ネタかと思われるカンタン刑や、時の流れが狂う酔歩する男とか大好き。酔歩する男は読んでいて頭がおかしくなりそう。良き良き。