事故の後遺症により、全てがグロテスクにしか見えなくなってしまった郁紀(ふみのり)。



正気を保つことすら困難であろう。臓物をぶちまけたかのような世界で化け物共が闊歩しているのだから。

想像してみてほしい。親しきに人が化け物にしか見えない絶望を。


想像してみてほしい。青い空が血塗られているおぞましさを。


その上、人は情報のほとんどを視界から得ている。味覚も、嗅覚も、触覚も、異常をきたした視覚に引っ張られるのは当然であった。
どんなにおいしい料理だろうが、今の郁紀には吐き気しかもたらさず、芳しいであろう見舞いの花には鼻を曲げられる。
ベッドのさわり心地は見た目と同じ。臓物のそれでしかなかった。

そしてついに人の声も正常に聴こえなっくなってしまった日の夜。郁紀は自殺を決意した。
当然である。誰が生きられようか。そのような世界で。

しかし、そこで運命という名の歯車は回り始める。

郁紀の前に、愛らしい少女が1人。沙耶が現れたのである。


その時の郁紀のセリフには涙を禁じ得ない

──手を、握らせてもらえないだろうか──

郁紀の想いは痛いほど伝わる。醜く変わり果ててしまった世界にたった一つ見つけた美しいもの。人のぬくもり。
郁紀は決してその手を離さないであろう。


たとえそれが


正常な人間が一目見たならば、発狂を免れぬ存在のものであったとしても……



沙耶は異世界からやってきた侵略者だ。
沙耶の種族は異世界を渡り歩き、その世界で繁栄している種族を地位もろとも乗っ取る存在。
しかし、この世界にやってきた沙耶に一つだけ問題がおこる。
彼女は、人間という種族を乗っ取る前段階として人間の文化を調べていった。
その過程で、人間は繁殖を行う過程で"恋愛"というものを行うことを知り、自身の繁殖のために"恋愛"を理解しようと努めて"しまった"。

結果、彼女は恋愛に倒錯した。端的に言うならば、"乙女"になってしまったのだ。
しかし、彼女は愛という名の祝福を得ることができなかった。何故なら、彼女は人間にとっておぞましき"化け物"でしかなかったから。

愛されることを望み、それでも愛を得られなかった少女。そんな彼女の前に現れた優しく髪をなでてくれる人。
郁紀と出会った沙耶の気持ちや如何ばかりか……
沙耶はさしずめシンデレラだ。治療の後遺症という魔法により、シンデレラは王子に見初められたのだ。

しかし、魔法はいつまでも続かない。時計の針は0時を指す。他ならぬ沙耶の手によって。
愛する郁紀の世界を取り戻すために。

そしてシンデレラは姿をくらます。固く握られた手を振りほどいて。



たった一つ。



ガラスのくつだけを残して……




沙耶の唄はまさしく純愛だ。是非ともみんなにプレイしてもらいたい。
しかし、如何せん18歳未満お断りのゲームであるため勧めにくい。

だが、それでも私は言いたい。

お前ら、沙耶の唄をやれ。と