ナラガシワの堅果形態は、近畿地方を境に東と西で変化することを書きましたが、滋賀県のナラガシワの堅果は東日本型なのに対し、お隣の京都府ではどのような形態なのかが以前から気になっていました。京都府東部では京都市山科区・山科中央公園と、長岡京市粟生でナラガシワが見られることを知ったので、訪ねてみました。
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【長岡京市粟生】
長岡天神駅からレンタサイクルを利用しましたが、徒歩でも行ける距離です。光明寺の西側にあります。
放生池のほとりにあった立札。ウラジロミドリシジミは東日本ではカシワ、西日本ではナラガシワを食樹とします。ウラジロミドリシジミを守るためにナラガシワの実生苗を植樹しているそうですが、当地はウラジロミドリシジミの産地として古くから有名だったそうなので、元々ナラガシワが自生していたのだと思います。
ナラガシワの成木。成木は少なく、萌芽個体が多かったです。まだ萌芽して数年と思われる株でも結実していました。当地では棚田やため池の土手の補強としてナラガシワ・クヌギが植えられたそうです。植生はナラガシワ・クヌギが優占種で、アラカシが混生しています。竹林が多いです。
規模は小さいですが、明るく開けた場所ではナラガシワが優占種になっていました。ナラガシワは、京都府長岡京市~大阪府高槻市にかけて点在するそうです。
【京都市山科区・山科中央公園】
最寄り駅は、東野駅または山科駅です。山科区「区民誇りの木」に選ばれており、山科区のホームページに記載されています。
室町期に営まれた山科本願寺の土塁跡にあります。園内にはナラガシワの成木が1本・若木が2本、ナラガシワまたはオオバコナラが2本、オオバコナラが3本、コナラがあり、エノキ・クスノキなどと混生していました。ナラガシワのどんぐりは、やや大粒の西日本型でした。公園ですが、オオバコナラもあるので自生ではないかと思います。
山科区のホームページには、「ナラガシワは山麓の林にもみられます」と書かれていたため、山科駅北東の諸羽山の麓にも行ってみました。しかし、ここはアベマキが優占種で、コナラ・アラカシ・ツクバネガシ・ツブラジイなどが混じる乾燥した里山で、ナラガシワはありませんでした。
京都府長岡京市で拾ったどんぐりと、滋賀県愛知川で拾ったどんぐりを比べてみました。
左の2個が京都府長岡京市産(西日本型)、右の2個が滋賀県愛知川産(東日本型)のナラガシワのどんぐりです。どうも、ナラガシワの遺伝的地域性の違いは、滋賀県と京都府の間に境界があるようです。大阪府生駒山・三草山で見たナラガシワのどんぐりも、西日本型でした。
京都府でのナラガシワの分布地点は他に、宇治市炭山、京都市西京区・小塩山、ポンポン山(※①)、綾部市~福知山市夜久野、笠置町・笠置山(※①②)、木津川市・鹿背山などがあるそうです。笠置山にあることは後述の①の文献で知り、今年の5月に行きましたが、見つけられず、遷移の進行によって消滅したのではないかと思いました。しかし、②の文献には「笠置町一帯にごく普通。笠置山にもたくさん生えており、とくに山麓から中腹にかけての谷筋に多い」と書かれているので、探せばまだ残っているかもしれません。
ナラガシワを食樹とするウラジロミドリシジミ、ヒロオビミドリシジミの京都府での分布は次のようになっており、これらの地域にもナラガシワが生育しているものと思われます。
・ウラジロミドリシジミ
全地域から記録があるが、分布は局地的。丹後・中丹地域(京丹後市丹後町、網野町、久美浜町、福知山市、舞鶴市、綾部市)、中部地域(京都市右京区(京北町))、南丹市日吉町)、山城地域(長岡京市、向日市、宇治市、木津川市加茂町、笠置町)などの記録がある。
・ヒロオビミドリシジミ
北部地域(福知山市、綾部市など)に分布するが、局地的。
この他にも、京都府ならびに近畿地方でのナラガシワ自生地をご存知の方がいらっしゃいましたら、情報提供いただけると幸いです。
<参考資料>
①神園英彦 京都の花木百科 夏秋冬 京都新聞出版センター 1994年
②奈良自然情報 第457号 奈良教育大学自然教育演習室 1994年







