3年ぶりに滋賀県の愛知川河辺林を訪ねました。愛知川駅にあるレンタサイクルを利用しました。過去に撮影した写真も併せて掲載します。

 

【愛知川河辺林の概要】

 湖東や湖北を流れる大きな川の中流~下流には、ケヤキ・エノキ・ムクノキ・ナラガシワを主体とした河辺林(河畔林)が発達する。ナラガシワは、高時川・犬上川・愛知川・野洲川・百瀬川・安曇川などで見られる。

 河辺林は、かつては水害防備や薪炭林・農用林(里山)として人々の暮らしに役立ってきた。しかし、その後、治水工事により流れが安定したことと、石油・電力や化学肥料の普及によって里山の需要がなくなったことで、河辺林は役割を失った。そのため、多くの河辺林が砂利採取地や工業用地として開発され減少した。愛知川の河辺林は、森林の規模や植物の多様性において、全国的に見ても貴重なものとなっている。

 近江鉄道から下流の自然堤防沿いではナラガシワ・エノキが優占し、オオバコナラ・クヌギ・アラカシ・アカシデ・ケヤキ・アキニレ・ムクノキ・シロダモ・ヤブツバキ・センダン・マダケなどが混生している。ナラガシワは自然堤防や氾濫原に多いが、高水敷に生えたものもある。コナラは殆ど見られず、ナラガシワとはすみわけしているようである。琵琶湖側ではケヤキが優占種になる。愛知川沿いに多く見られるマダケは、洪水対策として植林されたものである。

 

愛知川駅から自転車で右岸を琵琶湖方面へ走ります。河辺いきものの森にまとまった河辺林がありますが、ここではアベマキが優占種で、クヌギ・コナラ・アラカシに加えてナラガシワは点在する程度です。

自然堤防でナラガシワが多く見られます。 

しかし、竹林が多く、遷移の進行により森林の高木化やアラカシ・シロダモ・ヤブツバキなどの陰樹の増加で、陽樹であるナラガシワの更新に適した明るい環境は少なくなってきています。

この辺りでは柏餅の葉にナラガシワを使うと地元の方から聞きました(2021年10月30日撮影)。

この個体は大粒で細長く有毛のどんぐりでした(2022年11月5日撮影)。 

大粒のどんぐりをつける個体。どんぐりは11月中旬頃まで落ち続けそうでした。 

ナラガシワが沢山生える光景に大興奮!

今回見たナラガシワの中で最も大きかった個体(2021年10月30日撮影)。

上の写真の個体を横撮りしたもの(2022年11月5日撮影)。 

ナラガシワ(奥)とエノキ(手前)。 

左岸に移り、上流方向に向かいます。竹林の中にあるナラガシワの成木。 

左岸は右岸よりも竹林が多いです。ナラガシワは寿命が長いのですぐになくなることはないですが、竹林の拡大はナラガシワの更新に脅威となり、このままの状況が続けばナラガシワは減少していくことが予想されます。 

 

2025年のどんぐりは個体にもよりますが、全体的には並作~豊作でした。 

写真の堅果の長さは、最小が2.6cm・最大が3.8cmです。愛知川では長さ4.1cmもの堅果もありました(2022年11月5日採集)。

大阪府三草山と滋賀県愛知川で採集したナラガシワの堅果の比較です(2022年11月採集)。三草山の堅果(左側2個)は小粒で樽形・有毛ですが、愛知川の堅果(右側2個)は大粒で細長いです。堅果の長さは、三草山産:2.2cm・愛知川産:3.6cmです。私の経験上、ナラガシワの堅果は東日本では大粒で細長く、西日本では小粒で樽型・有毛になり、私はそれぞれ東日本型・西日本型と呼んでいます。

「津村義彦・陶山佳久 地図でわかる樹木の種苗移動ガイドライン 文一総合出版 2015年」には、「ナラガシワの遺伝的地域性は、近畿地方を境に北と南で明確に違っているが、滋賀県のものは中部・東北の天然林に遺伝的に近い」という記述があります。そのため、このような堅果形態の違いは、遺伝的地域性に起因するのかもしれません。

 

当地のナラガシワ林は、「野嵜玲児 ナラガシワ群落について-沖積低地の自然林植生の一型として- 奥田重俊先生退官記念論文集 2001年」に詳しく記されています。この文献には「ナラガシワの優占する森林の種組成や立地に関しては、一部を除いてこれまでほとんど報告がない」と書かれているように、やはりナラガシワ林は全国的にも少ないことがわかります。