2024年9月21日改訂

 

【雑木林とは?】

 照葉樹林を伐採した後にできた二次林で、かつて薪炭林・農用林として利用された林である。薪炭材として有用な樹種を人為選択したり、植林することもあった。多くはコナラ・クヌギ・アベマキ・クリなどの落葉広葉樹の林であるが、九州・四国・紀伊・伊豆・房総などの温暖な沿岸部ではスダジイ・マテバシイ・ウバメガシなどの常緑広葉樹が優勢になる。

 コナラ・クヌギは萌芽力が強い上に生長も早いため、伐採しても15~20年で材を利用できる大きさに育つ。薪炭材以外にも落葉を堆肥にしたり、丸太をシイタケ栽培の原木としても利用した。雑木林は放置すると元の照葉樹林に戻るため、定期的な管理や伐採が行なわれてきた。

写真1:東京都蘆花恒春園の雑木林。クヌギが優占し、コナラ・アカシデ・ヤマグワ・コブシ・ケヤキ・エノキ・ムクノキ・イロハモミジ・アカメガシワ・ミズキ・イイギリ・エゴノキなどが混生している。ボランティア団体によって保全活動が行われている。

 

【武蔵野の雑木林】

 東京都・埼玉県の武蔵野台地は江戸時代以前は草原であり、オギやススキなどが一面に生えていた。江戸時代に玉川上水ができると新田開発が相次ぎ、広大な農村地帯が誕生した。燃料としての薪炭や、農地に肥料として使う腐葉土を確保するため、人々はコナラやクヌギを植えて林を作った。これが武蔵野の雑木林である。武蔵野ではコナラ・クヌギを優占種として、クリ・イヌシデ・コブシ・ケヤキ・エノキ・ムクノキ・ヤマザクラ・イヌザクラ・ミズキ・エゴノキなどが混生することが多い。 

写真2:東京都西東京市西原自然公園の雑木林。地元の人達によって手入れが行われている。よく手入れされた雑木林は細い木が多い。

写真3:東京都国分寺市恋ヶ窪樹林地。住宅街の中に残された雑木林である。

 

【雑木林のサイクル】

①:コナラやクヌギを伐採し、薪炭材として利用する。

②:翌春、切り株から多くのひこばえ(萌芽)が出る(萌芽更新)。

③:生育の良いひこばえを2~3本残す。

④:15~20年後に伐採して薪炭材として利用する(①~④の繰り返し)。

⑤:①~④を3回くらい繰り返すと株が弱くなるため、実生や苗を新たに育てる。

毎年の作業:下草刈り(夏~秋)、落ち葉掃き(冬)

写真4:萌芽更新されたクヌギ(東京都西東京市西原自然公園にて撮影)

 

【放置された雑木林】

 昭和30年代(1955年頃)になると、石油・ガスや化学肥料が普及するようになり、雑木林の需要は減少し、放置されるようになった。放置された雑木林では大径木が増え、シラカシ・スダジイ・シロダモなどの陰樹が侵入するなどして、遷移が進行している。薄暗くなった雑木林では、キンラン・ヤマユリなどの草本類が衰退する。また、東京都(島嶼部を除く)では2019年以降にナラ枯れが拡大し、被害を受けやすいコナラ・クヌギの大径木が大量に枯死または衰弱している。

写真5:ムサシノキスゲ(ワスレナグサ科)。東京都府中市の浅間山のみに自生し、絶滅危惧Ⅱ類(VU)に指定されている。雑木林が放置されるとムサシノキスゲも衰退してしまう。

 

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<参考資料>

・中村幸人 植生から見る里山‎ 東京農業大学出版会 2021年

・NPO法人 市民まちづくり会議・むさしの 武蔵野市の雑木林の現状と課題