2022年8月9日掲載
2025年8月10日改訂
長野県辰野町・塩尻市の矢彦・小野神社を訪ねました。2015年10月以来2度目の訪問です。社叢は県指定天然記念物で、ナラガシワも生育しています。
矢彦・小野神社は中央本線辰野支線・小野駅(電車の本数が非常に少ないです)から徒歩約13分、標高約850mの沖積低地に鎮座します。
境内の樹木の約半分はスギ・ヒノキで、薄暗い林となっています。
南側林縁のナラガシワの若木。
南側の道路沿いのナラガシワ。樹高17m・幹径80cmくらいでしょうか。道路側の枝は切られていますが、境内のナラガシワの中で最も大きく、樹勢も良い個体です。
北側林縁のナラガシワの若木。周囲を高木に覆われており、懸命に光を求めて生き延びています。しかし、陽樹のナラガシワが薄暗い林内で生き延びるのは非常に難しいと思います。周囲に成木が2本ありますが、被陰でやや衰弱しています。禁伐地とされてきた鎮守の森は、ナラガシワの生育には不向きな環境です。
本殿裏手にはかつて、樹高30m・幹周420cmものナラガシワの巨樹がありました。しかし、2018年9月の台風で倒れ、ナラガシワの直撃で本殿も倒壊しました。
矢彦神社の池のほとりに生えた大木。近くで見られませんが、これもナラガシワのようです。
ナラガシワは成木4本・若木4本でした。若木4本のうち日当たりの良い場所に生育しているのは1本のみで、残りの3本は林冠ギャップが形成されなければ成木まで生長できないと思います。
境内はスギ・ヒノキを除くとケヤキが最も多く、オニグルミ・クリ・ハルニレ・コブシ・イタヤカエデ・オオモミジ・ミツデカエデ・カツラ・ミズキ・ウリノキ・ニガキ?・リュウキュウマメガキ?・トチノキ・モミ・カヤなどが見られました。ケヤキ・ハルニレは、ナラガシワ自生地には必ず出現しますね。
ナラガシワは長野県では絶滅危惧Ⅱ類(VU)で、県内各地で稀に生育とのことです。野沢温泉村・平林には樹高20m・幹周328cm・樹齢250年のナラガシワの巨樹(村指定文化財)があるそうです。塩尻市では準絶滅危惧(NT)となっています。
矢彦・小野神社はナラガシワの観察には不向きですが、近隣のシダレグリ自生地(2箇所)と併せて訪ねるのには良いと思います。
※2025年8月9日撮影
3年ぶりに矢彦・小野神社を訪ねました。
新しい説明板が立てられていました。エドヒガンは見つかりませんでした。
本殿南側林内のナラガシワの若木。弱々しく、枯葉も見られることから、やはりナラガシワはかなり陽樹的性格が強いことがわかります。
本殿北側にあるナラガシワの成木。この個体も林内に生育しているため、いまいち元気がないように見えます。
境内北東部にあるナラガシワ。3年前に来た時も元気がありませんでしたが、遂に枯死してしまいました…。
境内南の林縁にあるナラガシワの大木。日当たりが良いので樹勢は良好です。現在、矢彦・小野神社で樹勢が良好なナラガシワは、この個体と矢彦神社の池のほとりに生えた大木、境内南東部林縁に生えた若木の計3本のみで、後継樹も育っていないので先行きが危ういです。この奥にもナラガシワのような木が2本ありましたが、はっきりしませんでした。
境内の大径木は植栽と思われるスギ・ヒノキを除くと、ケヤキ・ハルニレ・ナラガシワ・イタヤカエデ・カツラ・モミで、自然植生はこれらの樹種が高木層を形成する林であったと思われます。陽樹的性格が強いナラガシワは、矢彦神社の池のほとりに生えた個体や、かつて本殿裏手にあった巨樹のように、周囲の樹木よりも先に林冠まで枝を伸ばすことができれば林内でも生きられると思いますが、既に周囲に木々が生い茂っている環境下では直射日光を浴びられる南側林縁でなければ生き残れないと思います。社叢は県指定天然記念物なので手を加えることはできないかもしれませんが、ナラガシワは長野県では絶滅危惧Ⅱ類(VU)なので、後継樹が育つように母樹の周囲だけでも草木を刈るなどして光環境を良くしてもらいたいものです。