極相林に生育するシイ・カシ類やブナの生育環境について記載します。二次林編(ナラ類やクリ)は以下に記載しています。

 

※亜熱帯→暖温帯→冷温帯、沿海地→山地の順に記載します。

 

【亜熱帯(琉球列島)】

・アマミアラカシ

奄美大島~与那国島に分布し、石灰岩地(島尻マージ)、渓谷沿い・急崖地などに自生する。奄美大島・徳之島には多いが、沖縄島では少ない。生育地の多くは開発され、自然林は奄美群島では神山・風葬地、沖縄では御嶽などの神聖な場所に残っている。

写真1:河川沿いで優占群落を形成するアマミアラカシ(徳之島)。徳之島の低地では至る所で見られた。

 

・オキナワジイ(イタジイ)

奄美大島~与那国島に分布。非石灰岩地(国頭マージ)の山地で優占種になる。萌芽力旺盛で、二次林でも見られる。やんばるの森の高木層の約7割を占める。

写真2:オキナワジイが優占する亜熱帯多雨林(石垣島)

 

・オキナワウラジロガシ

奄美大島~西表島に分布。非石灰岩地(国頭マージ)の山地の谷沿いで優占種になる。湿潤で自然度の高い場所にしか生えない極相種で、二次林では殆ど見られない。琉球列島の森林は、イタジイ・イジュ林からオキナワウラジロガシ・イスノキ林へ遷移していく。

写真3:オキナワウラジロガシの大木(徳之島)。板根が発達する。

 

【暖温帯】

・マテバシイ

自然分布は九州南部~沖縄県久米島・対馬と推定される。沿岸部や山地の尾根などの乾燥・風衝地に自生する。薪炭用として古くから植栽され、各地で野生化している。房総半島・三浦半島で大規模な林が見られるが、これは東京湾での海苔養殖のホダ木用として植林されたものである。

写真4:房総半島のマテバシイ林(千葉県南房総市大房岬)。鬱蒼と枝葉が茂り、林内は薄暗い。現在はナラ枯れで衰退している、

 

・シリブカガシ

愛知県以西に分布する。丘陵帯の花崗岩域などの土壌が浅く乾燥した立地に自生する。大阪府の自生地ではアラカシと混生していたが、アラカシに比べると数は少なかった。

 

・スダジイ

関東では内陸の丘陵地や山麓にも生育するが、東海以西では沿海地の照葉樹林に生育する。乾燥した立地に多い。カシ類やタブノキとともに、照葉樹林の代表種。萌芽力旺盛で二次林にも多い。

写真5:筑波山麓のスダジイ。関東では内陸部にも出現する。

 

・ツブラジイ

東海以西の内陸の丘陵や山地に分布し、乾燥した立地に多い。東海以西では海沿いにスダジイ、内陸にツブラジイ、内陸のさらに標高の高い所では再びスダジイが出現する。水平分布・垂直分布ともにスダジイに挟まれるような分布形態になっている。萌芽力旺盛で二次林にも多い。

写真6:花盛りで黄金色になったツブラジイ林(静岡県藤枝市)

 

・ハナガガシ

自生は四国(高知県)、九州(大分・宮崎・熊本・鹿児島県)に限られる。低山の谷沿いの斜面下部に自生し、ツブラジイやイチイガシと混生する。イチイガシと比較すると、土壌の浅い急傾斜地に生育する。生育地の多くは社寺林だが、宮崎県中南部の低山では少なくない。高知では岩場や尾根など土壌の浅い場所にも見られた。絶滅危惧Ⅱ類に指定されており、人工林化やダム建設によって減少したと考えられている。

写真7:ハナガガシが群生する社叢(高知県土佐市甲原・松尾八幡宮)

 

・イチイガシ

沖積低地や山麓部の谷沿いなど湿潤な肥沃地に自生し、東海以西では優占種になる。紀伊半島・四国・九州に多い。縄文時代の遺跡から多数出土しているが、現存する天然林は全国的にも少ない。生育地の多くは社寺林である。弥生時代以降、生育環境が水田開発されて減少したものと考えられている。

写真8:イチイガシが優占する社叢(静岡県藤枝市青山八幡宮)

 

・シラカシ

関東では低地・台地・丘陵・山地帯下部まで広く見られる。土壌が深く湿潤な場所を好み、関東ローム(火山灰性土壌)が堆積する関東では数が多い。東海以西の低地ではアラカシやイチイガシが多くなる。寒さに強い。

写真9:神奈川県川崎市東高根森林公園のシラカシ林。人為的干渉が一切なければ、関東平野には鬱蒼としたシラカシ林が広がっていたのだろう。

 

・アラカシ

低地~山地帯下部に自生し、渓流沿いの急傾斜地や石灰岩地などの土壌が浅い環境でも生育できる。カシ類としては最も先駆的で、二次林でもよく見られる。

 

・ウラジロガシ

丘陵~山地に自生し、渓谷沿いや尾根にも出現する。岩場などの土壌が浅い環境でも生育できる。山地のカシの代表種で、寒さにも強い。

写真10:石灰岩上に生育するウラジロガシの巨樹(東京都あきる野市「山抱きの大カシ」)

 

・ツクバネガシ

丘陵~山地に自生する。関東では海沿いにアカガシ、内陸丘陵地にツクバネガシ、山地では再びアカガシが出現する傾向がある。東海丘陵でも多く見られた。アカガシと混生することも多く、交雑種のオオツクバネガシも出現する。

 

・アカガシ

山地の照葉樹林に自生する。カシ類としては最も高標高まで出現し、ブナと混生することもある。房総半島・三浦半島・東京都区部では、海沿いでスダジイやタブノキと混生している。筑波山や函南原生林ではブナとの混生が見られた。

写真11:ブナと混生するアカガシ(茨城県筑波山)

 

【中間温帯・冷温帯】

・イヌブナ

太平洋側の山地に自生するが、ブナよりも低標高から出現する。表土の浅い乾性立地の斜面に多い。クリ・モミ・ツガ・シデ類などとともに中間温帯の代表種。

写真12:株元から萌芽するイヌブナ(東京都三頭山)。太平洋側地域では尾根沿いにブナ、斜面にイヌブナとすみわけしている。

 

・ブナ

冷温帯山地の極相種。関東では標高800~1600m辺りがブナ林になる。禁伐地とされた高尾山に残存していることを考えると、人工林・二次林化する前はもっと低標高にも生育していたのかもしれない。

林床にはササ類が繁茂することが多く、日本海側地域ではチシマザサ、太平洋側地域ではスズタケが生えることが多い。日本海側地域では純林になるが、太平洋側地域ではイヌブナ・ミズナラ・カエデ類などと混生する。太平洋側地域では後継樹が殆ど育っておらず、今後は衰退していくことが予想される。

写真13:紅葉時のブナ林(東京都三頭山)