東京では今夏もナラ枯れが拡大しており、あちこちでカシナガ被害を受けた木が見られます。北浅川沿いのナラガシワは無事なのか、今年も様子を見に行きました。ここのナラガシワについては度々掲載してきましたが、今回は当地の詳細な植生についても記載します。
【自生地の概要】
東京都八王子市西寺方町・下恩方町の北浅川沿いに約40本のナラガシワ(変種アオナラガシワを含む)が自生している。北浅川右岸は八王子市によって小田野中央公園(愛称:芝生公園)として整備されている。ナラガシワはレッドデータブック東京では絶滅危惧ⅠB類(EN)に指定されている。東京都では他に奥多摩町日原で記録があるものの、現状不明となっている。関東地方では神奈川・埼玉・群馬などにも生育しているが、分布地点・個体数ともに非常に少ない。
ナラガシワは現代の関東平野では稀な存在だが、縄文時代中期~晩期の遺跡からはよく出土しており、当時の関東平野には普通に生育していたことが明らかになっている。
【ナラガシワ自生地の植生】
北浅川沿いを大まかに4つの区域に分けて紹介します。
①小田野中央公園中央部
優占種はエノキ・ナラガシワで、他にはクヌギ・ケヤキ・オニグルミ・キササゲ・マグワ・ミズキ・マユミなどが生育しています。
②小田野中央公園南西部
優占種はナラガシワ・ケヤキで、チョウセンコナラ(ナラガシワ×カシワ)・オオバコナラ(ナラガシワ×コナラ)?・コナラ・クヌギ・エノキ・オニグルミ・イヌザクラ・カツラ・キササゲ・イロハモミジ・マグワ・ニガキ・クマノミズキ・マユミなどが生育しています。まとまった林があり、ナラガシワの個体数も最も多い区域です。
公園横を流れる北浅川です。今の時期は水量が少ないですが、秋の長雨の時期には勢いよく水が流れています。昨秋の台風で右岸の堤防が決壊し、修復が行われています。
ナラガシワは自然堤防外側の氾濫原に自生しています。オニグルミやヤナギ類と異なり、河道内には生えません。
ナラガシワの堅果の成熟時期が秋の台風シーズンと重複することを考えると、河川が氾濫した時に落下した堅果が水で流され、流れ着いた地で発芽して増えていくという更新形態なのかもしれません。しかし、北浅川沿いではナラガシワの後継樹は殆ど見られず、更新不順のようです。治水工事によって河川の氾濫が少なくなったことが要因なのかもしれません。
③北浅川左岸(下原刀匠康重鍛刀の地)
優占種はナラガシワで、ケヤキ・エノキ・オニグルミ・クヌギ・ヤマグリ・ニガキが生育しています。八王子市指定史跡・下原刀匠康重鍛刀の地です。
カブトムシが雌雄1匹ずついました。夏ですね。
以前は左岸に竹藪があり、竹藪の中にもナラガシワが少数ありましたが、伐採されてしまいました。今後、宅地化されるのでしょうか?
尚、後述の参考文献①によると、20年以上前は右岸に46本・左岸に17本のナラガシワが生育していたそうですが、現在では宅地化されて消滅した場所もあるようです。
④小田野中央公園北東部
ここにはナラガシワはありませんが、河畔特有の植生が見られるので紹介します。優占種はエノキ・ハリエンジュで、ハルニレ・ケヤキ・オニグルミ・サイカチ・マユミ・アラカシなどが生育しています。
ハルニレ。ハルニレも東京都レッドリスト(本土部)2020年版に記載されている種で、本土部では準絶滅危惧(NT)、南多摩では絶滅危惧Ⅱ類(VU)となっています。河畔林の構成種でナラガシワと混生することが多い樹種です。北浅川支流の小津川にも生育しています。
サイカチ。この木も東京ではあまり見られません。マメ科の落葉高木で、枝には棘があります。
ナラガシワがあるのは北浅川沿いの一角のみで、近隣の他の河川では全く見られません。縄文時代から弥生時代になり、人類の主食が堅果類から米になったことで河川沿いは水田や農地に転換され、ナラガシワも姿を消していったのかもしれません。北浅川のナラガシワ自生地は、縄文時代の古植生を今日に残す場所と言っても過言ではないかもしれません。
ナラ枯れ調査ですが、カシナガ被害を受けたナラガシワは0でした!東京では今年もカシナガ被害を受けたコナラが多数見られますが、ナラガシワはカシナガにそれほど好まれないのでしょうか?ナラ枯れ対策は行われていませんが、一安心です。
【参考文献】
①渡嘉敷裕 八王子城山及びその付近(旧恩方村)の主な植物(5) 東京都の自然 1996年3月
②須田大樹 関東地方におけるナラガシワの分布とその生育立地 埼玉県立自然の博物館研究報告 2018年3月
③野嵜玲児 ナラガシワ群落について-沖積低地の自然林植生の一型として- 奥田重俊先生退官記念論文集 2001年