2020年12月31日掲載

2025年1月5日改訂・再掲載

 

関東南部が分布北限となるイチイガシ。神奈川県では西部にイチイガシが少数あるようです。南足柄神社にイチイガシがあると知ったので、行ってみることにしました。

 

【南足柄市・南足柄神社】

写真中央右側の木がイチイガシで、左はシラカシです。境内はシラカシは多かったものの、イチイガシは写真の1本だけでした。樹高20m・胸高直径50cmほどです。1本だけにも関わらず、どんぐりが落ちていました。

 

【松田町・寒田神社】

寒田神社にもイチイガシが1本あり、「寒田神社のカシ」としてかながわの名木100選になっています。昭和59年(1984年)の指定時には、樹高30m・胸高周囲3.0m・推定樹齢約500年とされています。

南足柄神社と寒田神社のイチイガシは、神社に1本あるのみなので植栽起源かもしれません。しかし、両神社は川沿いに位置しているため、自生の可能性も否定できません。

寒田神社のイチイガシは、樹皮が白っぽい気がします。

午後であれば、松田小学校方向に撮影することもできます。

黄褐色の葉裏と木漏れ日が綺麗です。

寒田神社には何回も来ていますが、どんぐりは殆ど見ないです。ブナ科は自家不和合性(自家受粉では殆ど受精できず、結実しにくい)や雄性先熟(雄花が先に開花し、雌花が後から開花する)という説があり、その理論では1本だと結実しにくいはずです。しかし、南足柄神社のように1本でも結実する個体もあるということは、個体によっては自家結実するのでしょうか?(例えば、クリも基本的には自家不和合性ですが、筑波は多少自家結実するといわれます)


※2025年1月5日追記

【清川村別所・八幡神社】

本厚木駅から宮ヶ瀬行きバスに乗り、「別所温泉入口」で下車します。

社叢は県指定天然記念物でした。説明板にもイチイガシと書かれていました!境内の樹木には樹名板がつけられていました。

イチイガシは境内東側の斜面に1本だけありました!

樹名板にもイチイガシと書かれています。

樹高20mくらいです。小鮎川沿いに位置しており、自生の可能性があります。1本のみで結実が悪いのか、後継樹は育っていませんでした。

植生はタブノキが優占し、スダジイ・アラカシ・イチイガシ・ウラジロガシ・イヌシデ・アサダ・ホオノキ・ケヤキ・ムクノキ・ヤブツバキ・ヤマグルマ・ムクロジ・イタヤカエデ・モミ・カヤなどが見られました。また、説明板に書いてあったクヌギ・シラカシは見つかりませんでした。

 

「神奈川県レッドデータブック2022 植物編」によると、イチイガシは絶滅危惧Ⅱ類で、神奈川県では愛川・小田原-2・南足柄-2・山北-8の調査区でも記録があるようです(南足柄神社は南足柄-3の調査区になります)。「弥生時代から古墳時代の関東地方におけるイチイガシの木材資源利用」という文献によると、湯河原辺りにも分布の印があります。また、伊勢原市・日向薬師にもあるという情報もあります。

関東・伊豆のイチイガシは、西南日本の個体群とは遺伝的地域性が異なるそうです。当記事で紹介した3箇所は、いずれもイチイガシが1本だけのため、更新できたとしても近交弱勢になります。房総・八王子・伊豆でもイチイガシの個体数は少ないため、分布北限域のイチイガシは先行きが危ういでしょう。