前回のお話の続きです。古庵様と合流し、土佐市の松尾八幡宮から須崎市上分甲のハナガガシ自生地へ移動します。地図では表記されない場所ですが、熊野神社と横川公園の間の標高約140～400mの区域です。
須崎市上分では、2018年春にハナガガシが発見されました。四国でハナガガシが社寺林以外で見つかるのは初めてのことでした。高知県立牧野植物園の職員も調査に来られ、四国で初めて明らかな自生地とのお墨付きを戴きました。これにより、ハナガガシが四国にも自然分布していたことが明らかになりました。
2018年5月26日の高知新聞の記事です。地元の新聞やテレビで取り上げられたそうです。
古庵様作成の動画です。
須崎市のハナガガシは、スギ人工林の中にあります。
周囲の天然林では、ツブラジイが優占種です。
ハナガガシの若木や萌芽個体がスギ人工林の中に混じります。一度皆伐してスギを植林した後、林床にあったハナガガシの実生や萌芽個体がスギとともに生長していったのでしょう。林内は薄暗く、陰樹でないと生き延びることができない環境です。このまま林が放置されれば、いずれは高木層にハナガガシやツブラジイが優占する照葉樹林になることでしょう。
ハナガガシの葉です。枝先には細長い冬芽が目立ちます。この点は、ハナガガシに近縁といわれるツクバネガシに似ています。
土佐市と同様に土壌が浅いようで、板根を形成した個体も見られます。急斜面に生える個体では、板根の発達が顕著です。
ハナガガシの成木です。大分県では、隣接するスギの切り出しの邪魔になるということで伐採されたこともあるそうです。
成木は少なめでしたが、大きな個体は樹高25mほどありました。スギ人工林化する際に幸運にも伐採を免れて、大きく育ったのでしょう。
ハナガガシ（正面のテープを巻かれた個体）は谷沿いの他に、岩場にも生えていました。九州では谷沿いの斜面下部に限定されるそうなので、岩場にもあったのは意外でした。
ハナガガシの幹には目印としてテープが巻かれています。
この個体も、かなりの急斜面に生えています。ハナガガシは上分地区ならどこにでもあるというわけではなく、生育地点は限られているそうです。
上分では、ツブラジイ、アラカシ、イチイガシ、カゴノキ、シロダモ、バリバリノキ、タイミンタチバナ、ルリミノキ、カンザブロウノキ、ミミズバイ、ヤマモガシ、ヤマビワなどがハナガガシと混生していました。関東では見ない樹種が多いため、植生観察するのが面白かったです。
帰りに、須崎市指定天然記念物の「遅越のイチイガシ」を案内していただきました。
イチイガシも関東には少ないので、私にとっては憧れの種です。
木が1本しかないためか、どんぐりは見つかりませんでした。
以下に、四国でのハナガガシ生育地の情報を整理します。四国では現在、高知県で5箇所、愛媛県で1箇所の計6箇所にハナガガシが生育します。
【高知県】
①高知市の朝倉神社
社殿西側に成木が2本。社殿北東側にも大木があったが、2019年8月に台風で倒壊した。
②土佐市甲原の松尾八幡宮
市指定天然記念物。成木が57本と多数の若木あり。
③土佐市北地の闇谷神社
成木が4本と多数の若木あり。
④四万十町広瀬の河内・八坂神社
成木が3本と多数の若木あり。
⑤須崎市上分甲
成木・若木・萌芽個体など計100本以上。
【愛媛県】
⑥愛南町の八幡野八幡神社
社叢全体が町指定天然記念物。「木の実・草の実(ニュー・サイエンス社、1977年)」には、3本のハナガガシがあると記載されている。
＜消滅した生育地＞
・高知県仁淀川町二子野の中山神社
数本のハナガガシが、国道33号線にかぶさるように繁っていた。道路拡張工事により伐採か？ハナガガシに近縁のツクバネガシが現存している。引用文献：「土佐の名木(1971年)」、「四国の名木ものがたり(1976年)」
私が今回、高知を訪問して気づいたのは、低山帯の斜面に柑橘畑が多かったことです。松尾八幡宮の周辺には、多くの柑橘畑がありました。須崎でハナガガシが低山帯の急斜面に生えていたことを考えると、ハナガガシ生育地は柑橘畑やスギ林に置き換えられて減少し、今日では社叢のような禁伐地に僅かに残るだけになったのでは？と思いました。
また、ハナガガシは幹が真っ直ぐに伸びる点はツブラジイやシラカシに似ており、葉が高い所につくので特徴を掴みづらい印象があります。その上に、掲載されている図鑑が少なく、認知度の低い樹種です。以上のような理由から、単に気づかれていないだけで他の場所も詳しく調査すれば、まだまだ見つかる可能性がありそうだと思いました。
案内したくださった古庵様、本当にありがとうございました！
※2020年3月2日追記
記事中の一部表現に語弊があったため、内容を修正しました。