分類:バラ科ナシ属

和名:マメナシ(豆梨)

別名:イヌナシ(犬梨)

学名:Pyrus calleryana

分布:本州(愛知・岐阜・三重県)、朝鮮半島中部、中国大陸中南部、ベトナム北部

樹高:8~10m 直径:20cm 落葉小高木 陽樹

 

伊勢湾周辺の丘陵地・台地の緩やかな谷湿地や、溜池周辺などの湧水のある場所に自生する。分布の中心は名古屋市守山区とその近郊であり、天然記念物に指定された場所が多い。氷河期の遺存植物とされる。

本種は環境省レッドリストの絶滅危惧ⅠB類(EN)に指定されている。国内における自生地は約80箇所、成木の個体数は約460本で、多くの自生地が単木である。人里近くに生育するため、耕地整理や開発により減少している。刺が多い樹木であるため、邪魔者扱いされて伐採されることもある。

 

葉は広卵形~卵状長楕円形で長さ4~9cm、葉柄1.5~4cm。長枝に互生するか短枝に束生する。縁に細かい鈍鋸歯がある。

 

花は3~4月に開花し、白色で直径約2.5㎝、花弁は5枚ある。花柱は2~3個である。

花の見頃は、ソメイヨシノとほぼ同時期である。

枝振りは粗い印象がある。

 

果実は球形で直径約1cm。秋に黄褐色に熟し、円形の小さい皮目が多数ある。鳥が好んで食べないため、種子は拡散しにくい。また、バラ科植物は自家不和合性であるため、単木では繁殖が不可能である。

和名は果実が小さいことに由来する。三重県伊勢地方ではイヌナシと呼ばれ、渋くて食べらず、役に立たないことに由来する。

 

樹皮は灰紫黒色で、縦に割れ目が入る。

 

名古屋市守山区蛭池のマメナシ自生地。約70本が自生する日本最大級のマメナシ自生地で、実生も多く確認されている。

 

栽培ナシの台木、盆栽として利用される。欧米では観賞用の花木として利用され、庭木や街路樹として植栽される。欧米では、在来の野生ナシとの交雑が問題になっている。

 

【都道府県別保全状況】

・愛知県:絶滅危惧ⅠA類(CR)

名古屋市守山区、瀬戸市~尾張旭市に分布。名古屋市守山区には150株が存在する。

・岐阜県:絶滅危惧Ⅰ類

海津市で2株の自生が確認されているのみ。

・三重県:絶滅危惧ⅠB類(EN)

桑名市、いなべ市、東員町、四日市市、鈴鹿市、松阪市、多気町、明和町、玉城町、伊勢市、鳥羽市に分布。

 

【交雑種】

アイナシ 学名:Pyrus×uyematsuana

マメナシとヤマナシ(または栽培ナシ)の雑種。花柱は3~5本、果実は直径1~3cmである。マメナシ自生地または自生地近隣に出現することがある。

 

【近縁種】

ヤマナシ 学名:Pyrus pyrifolia var.pyrifolia

本州、四国、九州の人里近くの丘陵~山地の尾根や林縁などに生えるが、中国原産のものが野生化したという説もある。葉は葉身6~15cm、葉柄3~6cm。花柱は5本ある。果実は直径約3cmで渋く、先端に萼片は残らない。

果樹として栽培されるナシ(別名:ニホンナシ・ワナシ、学名:Pyrus pyrifolia var.culta)は、ヤマナシを原種とする栽培品種で、果実が大きく甘い。代表的な品種として、豊水、幸水、二十世紀などがある。

ナシの花。見た目とは裏腹に、香りはあまり良くない。

東京都稲城市の梨園。梨園では風害や日照確保のため、棚仕立てが用いられる。

 

2018年9月、フモトミズナラのどんぐりを拾いに愛知県を訪れた時に、名古屋市守山区蛭池、小幡緑地東園で観察した。名古屋市昭和区の八事山興正寺にもあると聞いたが、枯死したのか見つからなかった。

関東では、神奈川県二宮町の二宮果樹公園に1本、千葉県市川市の市川駅南口に2本、大洲防災公園に3本植栽されている。撮影しに訪れた時は、花は既に終わり気味であり、東京でソメイヨシノが5分咲き前後の頃に見頃を迎えるのかもしれない。茨城県の筑波実験植物園にもあるようだ。

 

2021年3月28日更新