2019年4月10日掲載
2025年9月23日改訂・再掲載
分類:バラ科ナシ属
和名:マメナシ(豆梨)
別名:イヌナシ(犬梨)
学名:Pyrus calleryana
分布:本州(愛知・岐阜・三重県)。朝鮮半島中部、中国大陸中南部、ベトナム北部。
樹高:8~10m 直径:20cm 落葉小高木 陽樹
伊勢湾周辺の丘陵地・台地の緩やかな谷湿地や、溜池周辺などの湧水のある場所に自生する。分布の中心は名古屋市守山区とその近郊であり、天然記念物に指定された場所が多い。氷河期の遺存植物とされる。
本種は環境省レッドリストの絶滅危惧ⅠB類(EN)に指定されている。国内における自生地は約80箇所、成木の個体数は約460本で、多くの自生地が単木である。人里近くに生育するため、耕地整理や開発により減少している。刺が多い樹木であるため、邪魔者扱いされて伐採されることもある。
葉は広卵形~卵状長楕円形で長さ4~9cm、葉柄1.5~4cm。長枝に互生するか短枝に束生する。縁に細かい鈍鋸歯がある。
花は3~4月に開花し、白色で直径約2.5cm、花弁は5枚ある。花柱は2~3個である。
花の見頃は、ソメイヨシノとほぼ同時期である。
枝振りは粗い印象がある。
果実は球形で直径約1cm。秋に黄褐色に熟し、円形の小さい皮目が多数ある。鳥が好んで食べないため、種子は拡散しにくい。また、バラ科植物は自家不和合性であるため、単木では繁殖が不可能である。
和名は果実が小さいことに由来する。三重県伊勢地方ではイヌナシと呼ばれ、渋くて食べらず、役に立たないことに由来する。
樹皮は灰紫黒色で、縦に割れ目が入る。
愛知県名古屋市守山区・蛭池のマメナシ自生地。約70本が自生する日本最大級のマメナシ自生地で、実生も多く確認されている。
栽培ナシの台木、盆栽として利用される。欧米では観賞用の花木として利用され、庭木や街路樹として植栽される。欧米では、在来の野生ナシとの交雑が問題になっている。
関東では神奈川県二宮町・二宮果樹公園に1本、千葉県市川市・市川駅南口に2本、大洲防災公園に3本、茨城県・筑波実験植物園などに植栽されている。
【都道府県別保全状況】
・愛知県:絶滅危惧ⅠA類(CR)。2020年。
名古屋市守山区、瀬戸市~尾張旭市に分布。名古屋市守山区には約150株が存在する。
・岐阜県:絶滅危惧Ⅰ類。2015年。
海津市で2株の自生が確認されているのみ。
・三重県:絶滅危惧ⅠB類(EN)。2015年。
桑名市、いなべ市、東員町、四日市市、鈴鹿市、松阪市、多気町、明和町、玉城町、伊勢市、鳥羽市に分布し、既知の生育地点数は15以下である。
【交雑種】
・アイナシ 学名:Pyrus×uyematsuana
マメナシとヤマナシ(または栽培ナシ)の雑種。花柱は3~5本、果実は直径1~3cmである。マメナシ自生地または自生地近隣に出現することがある。
【近縁種】
・ヤマナシ 学名:Pyrus pyrifolia var.pyrifolia
本州・四国・九州の人里近くの丘陵~山地の尾根や林縁などに生えるが、中国原産のものが野生化したという説もある。葉は葉身6~15cm、葉柄3~6cm。花柱は5本ある。果実は直径約3cmで渋く、先端に萼片は残らない。
果樹として栽培されるナシ(別名:ニホンナシ、ワナシ、学名:Pyrus pyrifolia var.culta)は、ヤマナシを原種とする栽培品種だが、一部の品種には東北地方などに分布するミチノクナシ(別名:イワテヤマナシ、学名:Pyrus ussuriensis)の血も混じる。果実は大きくて甘い。代表的な品種として、幸水・豊水・新高・二十世紀・あきづきなどがある。
栽培品種・ナシの葉。ヤマナシより大形で、葉面が反ることが多い。
ナシの花。見た目とは裏腹に、香りはあまり良くない。
東京都稲城市の梨園。梨園では風害や日照確保のため、棚仕立てが用いられる。関東平野は関東ロームという火山灰土壌に覆われており、水はけが良く梨栽培に適している。東京都日野市・稲城市、神奈川県川崎市を中心に、多摩川流域で収穫される梨は「多摩川梨」と呼ばれる。
ナシの実。果実の皮の色が褐色のもの(写真)は赤ナシ(幸水・豊水・新高・あきづきなど)、黄緑色のものは青ナシ(二十世紀など)と呼ばれる。