2018年10月26日掲載
2025年10月5日改訂・再掲載
神奈川県相模原市緑区中沢のナラガシワ自生地に行きました。
橋本駅北口から橋09系統バスに乗り、中沢で下車。中沢バス停から北東に向かいます。
途中には、市指定天然記念物で日本最大のウラジロガシである「城山のウラジロガシ」があります。
写真は2017年撮影のものです。
説明板が設置されました(2025年10月5日撮影)。
城山のウラジロガシからさらに高速道路に沿って北西へ向かいます。すると、沢に続く道があるのですが、2025年10月現在では入口が草で覆われてわかりにくくなっていました。
沢の下流側のナラガシワ。この個体は今までアオナラガシワだと思っていましたが、裏が白い葉が落ちていたので、基本種ナラガシワだったようです。基本種ナラガシワでも、日影の枝やひこばえにつく葉は裏が緑色です。この個体はナラガシワにしては葉が小形で、鋸歯も浅いです。
沢沿いを下流側へ向かったところ、新たにナラガシワを1本発見しました。しかし、シイナが多く、まともなどんぐりは見つかりませんでした。
沢の上流側のナラガシワです(写真右上)。どうやら中沢には3本のナラガシワがあるようです。しかし、私はこの後、異変に気付きました!
なんと、枝が折れているのです!先日の台風で折れたのでしょう。希少な樹種なだけに、非常に残念です。
沢のさらに上流にも行ってみましたが、ナラガシワはありませんでした。周囲は殆どがスギの植林帯です。前述の3本のナラガシワは沢沿いの崖や急傾斜地に生えていたため、人工林化する際に幸運にも伐採を免れたのでしょう。
中沢ではどんぐりが拾えなかったため、小田野中央公園を再訪しました。
今回は北浅川左岸(北側)でどんぐりを採集しました。
細長くて大きいどんぐりで、長さは約3.5cmもあります。
また、チョウセンコナラ(ナラガシワ×カシワ)を新たに2本発見しました。
花柱と殻斗の鱗片が長いです。葉は1本はカシワの葉柄を長くしたような形で、もう1本はナラガシワと殆ど同じ形をしていました。同じ雑種でも、個体によってかなりの変異があります。
【2025年10月5日撮影】
7年ぶりに訪ねました。
沢の下流側。林床には草木が生い茂っており、遷移が進行してアラカシが増えています。
写真中央の木がナラガシワだった筈ですが、枯死していました。急斜面のため近くで見られませんでしたが、ナラ枯れだと思います。
沢の上流側。写真中央右上の木がナラガシワですが、こちらも枯死していました。また、沢付近の道が崩壊していて、近寄ることができなくなりました。林床は薄暗く、陽樹のナラガシワの更新には絶望的な環境で、後継樹はありません。当地に3本あったナラガシワは全て消滅しました。
植生は植林されたスギが多いですが、自生の樹種としてはコナラが優占で、ナラガシワ・アラカシ・イヌシデ・ホオノキ・ケヤキ・エノキ・イタヤカエデ(オニイタヤ)・ヤマザクラ?・モミ若木などが見られました。コナラもかなりの数がナラ枯れで枯死していました。やはり、人工林化・里山の管理停止による遷移の進行・ナラ枯れは、ナラガシワの大きな減少要因になっているでしょう。ナラガシワは消滅しましたが、かつてナラガシワが自生していた当地は、ナラガシワの生育環境を知る上では貴重な場所になるでしょう。
神奈川県では他に、大和市下和田町上ノ原、足柄上郡山北町山神峠でもナラガシワの記録があるようです。「大和市教育委員会 大和市の植物 大和市動植物総合調査報告書 2 大和市文化財調査報告書 1991年」という文献によると、大和市のナラガシワは段丘斜面の林縁に1本だけあるそうですが、筆者は確認できませんでした。また、山北町山神峠は標高約880mで、主に暖温帯に自生するナラガシワにしては標高が高く(参考までに、群馬県安中市碓氷峠のナラガシワの分布の中心は標高約380~500mで、上限は標高約580mです)、コナラ属の交雑種と誤認されやすいことも踏まえると、疑わしいです。そのため、中沢のナラガシワが全て枯死したことによって、神奈川県ではナラガシワが野生絶滅になったと言って良いでしょう。しかし、中沢や関東の他のナラガシワ自生地と類似する環境(低地の河川沿いの氾濫原や山麓部の沢沿い)をくまなく探せば、まだナラガシワが見つかる可能性はあると思います。今後、神奈川県でナラガシワが新たに見つかることに期待したいです。
※2025年10月6日追記
沢の上流側の写真に誤りがあったため修正しました。また、文献「大和市の植物」の詳細情報も記載しました。