クヌギとアベマキは似ているように見えますが、よく観察すると色々と違いが見つかります。

本項では、クヌギとアベマキの違いについて、葉・樹皮・どんぐり・分布などの観点からまとめたいと思います。

 

【葉の裏】

左がクヌギ、右がアベマキの葉裏である。クヌギの葉裏は無毛で緑色に見えるが、アベマキの葉裏には星状毛が密生し、白っぽく見える。また、アベマキの葉はクヌギよりも幅広になる傾向がある。アベマキの葉はクヌギの葉よりも葉面積が大きく、風に翻ると白っぽい葉裏が見えるため、慣れてくると遠くから見ても違いが大体わかるようになる。

 

【樹皮】

クヌギの樹皮。灰褐色で、成長するにつれて縦に割れ目が入る。樹皮を指で押しても硬い。

アベマキの樹皮。クヌギよりもやや明るい灰色で、クヌギと同様に成長とともに縦に割れ目が入る。クヌギと違ってコルク層が発達するため、樹皮を指で押すと弾力がある。ただし、コルク層の発達具合には個体差がある。コルク層がよく発達し、皮がはげやすいものをホンアベ、コルク層の発達が悪く、クヌギに近いものをミズアベと呼ぶことがある。

アベマキのコルク層。現代では地中海地方に分布するコルクガシからコルクを採取するが、第二次世界大戦中から戦後暫くの間はアベマキからコルクを採取した。コルク採取用として植栽された所もある。樹皮をよく見ると縦筋が何本も入っているのが確認できるが、これは1年間に成長した樹皮の厚さである。樹皮は幹の内側から形成されるため、外側に押し出されるように成長する。そのため、外側の樹皮ほど古い。コルク層は15年で約2㎝厚くなる。アベマキはコルク層が厚いため、薪炭材やシイタケ栽培の原木としてはクヌギに劣るという。コルク層の発達した樹皮や葉裏に密生する星状毛は、高温・乾燥に対する耐性を示しており、温暖で降水量の少ない瀬戸内海沿岸地域にはアベマキが多く分布する。

アベマキの「アベ」とは、岡山県の方言で痘痕を指す言葉で、凸凹した樹皮を痘痕に例えたものである。「マキ」は薪の意味である。また、「アバタマキ」が変化して「アベマキ」になったという説もある。

 

【どんぐり】

クヌギもアベマキもどんぐりは2年成で、9~10月に熟す。

左側の堅果2個・殻斗1個がクヌギ、右側の堅果2個・殻斗1個がアベマキである。

クヌギの堅果は球形のものが多く、直径2~3cmと大粒である。アベマキの堅果は球形のものもあるが、楕円形のものが多い。アベマキの堅果は長さ2~2.5cmで、クヌギよりもやや小粒である。アベマキの殻斗は、クヌギよりも厚みがあり、鱗片もクヌギよりも長いことが多い。

アベマキの堅果は落下するとすぐに発根するが、クヌギの発根時期はアベマキよりも遅い。また、両種の堅果を植えて苗木を育ててみたところ、クヌギの方が生長が早かった。

 

【クヌギは中国大陸原産?】

クヌギは薪炭材としての利用価値が高く、古くから植栽されてきた。クヌギは中国大陸原産で、日本にあるものは全て植栽起源とする説もある。クヌギは人里近くに多く、奥山では殆ど見られないこと、クヌギの花粉は縄文時代前期からは出土するが、それ以前の時代からは出土しないことがその根拠となっている。コナラ・クヌギの雑木林は縄文時代初期といわれる日本での農耕の始まりと深い関係があるといわれている。雑木林が稲作や畑作に不可欠なものだとすると、クヌギは縄文時代前期に農耕技術や稲作の種籾とともに大陸から持ち込まれた可能性がある。

クヌギは日本では本州(岩手・山形県以南)、四国、九州(屋久島・種子島まで)に分布し、沖縄県にも少数が植栽されている。関東地方の雑木林では、コナラ・クヌギが優占種になる。

 

【アベマキは主に中部地方以西に分布】

アベマキは、日本では本州(長野県南部・静岡県天竜川以西の太平洋側、新潟県北蒲原地方以西の日本海側、紀伊半島を除く)、四国、九州(福岡・佐賀・長崎・大分県。対馬を含む)に分布する。分布の中心は中部地方以西で、西日本の雑木林ではクヌギよりもアベマキの方が優勢となる。東海地方、中国地方、瀬戸内海沿岸地域には特に多い。山形市付近や関東地方にも稀にあるが、これらは植栽逸出起源とする説がある。

 

【クヌギとアベマキは交雑する】

クヌギとアベマキは交雑し、交雑種はアベクヌギ(アイノコアベマキウスカワアベミズアベシロアベ)と呼ばれる。アベクヌギは葉裏の星状毛がまばらで、樹皮はコルク質だがアベマキのように厚くない。しかし、変異が大きく、クヌギに近いものからアベマキに近いものまであるという。長野県駒ケ根市~飯島町の天竜川流域で交雑帯を形成している他、広島・島根県でも多く見られる。アベクヌギは私は見たことがないため、いつか見てみたい。

 

【まとめ】

①葉の裏はクヌギは緑色、アベマキは灰白色。

②アベマキの樹皮はコルク層が発達し、指で押すと弾力がある。クヌギの樹皮は指で押しても硬い。

③堅果はクヌギは丸くて大粒、アベマキはクヌギよりもやや小粒で楕円形であることが多い。

④東日本にはクヌギ、西日本にはアベマキが多い。クヌギは中国大陸原産の帰化種という説も。

※若木や実生は結実せず、コルク層も発達しないため、葉の裏で識別するのが一番堅実!

 

2020年10月17日更新