2018年5月27日掲載
2025年4月14日改訂・再掲載
2025年5月14日改訂
分類:ムクロジ科カエデ属(旧カエデ科カエデ属)
和名:ハナノキ(花の木)
別名:ハナカエデ
学名:Acer pycnanthum
分布:本州(長野県南部・岐阜県東濃地方・愛知県北東部)。日本固有種。
樹高:15~30m 直径:150cm 落葉高木 陽樹
長野・岐阜・愛知県境一帯の丘陵~山地の湿地、谷間、川沿いに自生する。生育標高は200~900mで、シデコブシやハンノキと混生する。分布の中心は岐阜県東濃地方だが、長野県大町市居谷里湿原にも隔離分布する。滋賀県東近江市に国指定天然記念物の個体があるが、植栽起源と思われる。
本種は環境省レッドリストの絶滅危惧Ⅱ類に指定されている。土地開発によって、多くのハナノキの生育地が消失し、集団の分断・孤立化、小集団化が進んでいる。また、戦後の拡大造林により、ハナノキの生育地やその周囲にスギ・ヒノキなどが植林されて林内の光環境が悪化し、ハナノキの更新が困難になっている(※①)。野山に植栽されていることもあり、分布情報の混乱や遺伝的撹乱も懸念される。アメリカハナノキの苗木がハナノキと区別されずに扱われており、交雑も危惧されている。
葉は対生し、葉身は広卵形で、長さ 4~8cm、幅 3~10cm。先端は鋭く尖り、縁には重鋸歯がある。老木の葉は切れ込まないが、若木の葉は 3 裂することが多い。葉柄は長さ3~8cmで、葉裏は粉白色を帯びる。
秋の紅葉は美しい。
花期は3~4月。雌雄異株で、葉の展開前に暗紅色の花をつける。果実は翼果で、5月に熟す。
雄花(雄株)は上向きに咲く。
雌花(雌株)は長い柄の先に下垂し、そのまま翼果に育つ。雌株は少ない。
花から翼果になった時の雌株。木全体が赤くなっている。
開花時の雄株。障害物のない場所では枝が横に広がる。
樹皮は灰白色で、縦に深く裂け目が入る。樹皮や葉を煎じたものを洗眼に利用する。
萌芽力旺盛で株立ちになることも多い。生長は比較的早い。寿命は百数十年程度とされる。湿地周辺に生育するため根の発達が悪く、地上部の重さに耐えられず、転倒してしまうこともある。陽樹で耐陰性も多少ある。
公園樹・街路樹・庭木として植栽される。大気汚染には弱い。
ハナノキは氷河時代の遺存種で、生きた化石と称される。ハナノキの祖先は第三紀初期に北米で出現し、第三紀の温暖期には東アジア・ヨーロッパ・北米大陸に広く分布を広げた。この頃は地球の気温が現在よりも10℃以上暖かかった。その後、気温の低下に伴い1500万年前以降急速に衰退した。度重なる氷河期を耐えて生き残ったのは、北米東部に分布するアメリカハナノキ(別名:ベニカエデ 英名:Red Maple 学名:Acer rubrum)・ギンヨウカエデ(英名:Silver Maple 学名:Acer saccharinum)に加え、日本のハナノキの3種のみである(※①②③)。ハナノキとアメリカハナノキはごく近縁で、ハナノキをアメリカハナノキの変種とすることもある。
【天然記念物】
・岐阜県土岐市:白山神社のハナノキおよびヒトツバタゴ(国指定天然記念物)
ヒトツバタゴとハナノキが共生する希少な場所として国指定天然記念物に指定されている。 境内にはかつて、樹高約12m・目通幹囲4.2m・根元周囲7.15m・樹齢1000年のハナノキが自生していたが、2007年に枯死した。現在あるハナノキはかつてのハナノキのクローン個体で、2022年3月に植栽されたものである。このハナノキは雄株と考えられている。
・岐阜県中津川市:坂本のハナノキ自生地(国指定天然記念物)
日本で最初に発見されたハナノキ自生地で、指定地内には約30個体のハナノキが生育する。大きなものは樹高20mほどあり、シデコブシやハンノキと混生している。
【都道府県別保全状況】
・長野県:絶滅危惧Ⅱ類(VU)。2014年。
・岐阜県:絶滅危惧Ⅱ類(VU)。2014年。
・愛知県:絶滅危惧ⅠA類(CR)。2020年。県木に指定されているが、自生は瀬戸市・豊田市・豊根村などに僅かに見られるのみ(※④)。
【近縁種】
・アメリカハナノキ 学名:Acer rubrum
別名:ベニカエデ、ルブラカエデ
英名:Red Maple
北アメリカ東部(カナダ~フロリダ)の湿潤地に自生する落葉高木。日本では街路樹として利用される他、ハナノキの植栽の中に混じっていることもある。ハナノキは雌雄異株だが、アメリカハナノキには雄株・雌株・両性株が存在する。
葉はハナノキより幅広で大形、切れ込みが深く、5裂することが多い。
紅葉が美しく、都市に植栽されることもある。
樹高15~20m、大きなものは樹高40m・直径1mになる。
【東京近郊での植栽地点】
ハナノキ
〈東京都〉
・江東区:仙台堀川公園
・千代田区:皇居外苑
・文京区:小石川植物園
・新宿区:新宿御苑
・板橋区:赤塚植物園
・三鷹市:井の頭恩賜公園
・調布市:神代植物公園
・小金井市:梶野町ハナノキ公園、ハナノキ通り(並木だが、剪定されやすい)
・国分寺市:東恋ヶ窪1・3丁目(並木だが、剪定されやすい)、武蔵国分寺公園
・小平市:東京都薬用植物園
・多摩市:大谷戸公園、聖ヶ丘学園通り(並木)
・八王子市:大栗川沿い、東京都立大学南大沢キャンパス、南大沢5丁目(並木)、八王子みなみ野付近、多摩森林科学園
〈千葉県〉
・千葉市:泉自然公園
・柏市:柏の葉公園
〈神奈川県〉
・横浜市:青葉区美しが丘~港北区綱島西、戸塚区舞岡町~港南区日限山など(並木)
アメリカハナノキ
〈東京都〉
・江戸川区:新長島川親水公園
・文京区:文京区役所付近
・千代田区:皇居東御苑
・港区:赤坂一丁目
・目黒区:林試の森公園
・調布市:神代植物公園
・立川市:東京都農林総合研究センター
〈埼玉県〉
・入間市:彩の森入間公園
〈千葉県〉
・千葉市:泉自然公園
【参考資料】
①https://www.ffpri.affrc.go.jp/labs/raretree/12_APindex.html
②矢口行雄 樹木医が教える緑化樹木事典 誠文堂新光社 2009年
③ハナノキ湿地の自然史 飯田市美術博物館
④湧水湿地研究会・富田啓介 東海地方の湧水湿地を楽しむ 風媒社 2022年