2018年5月6日掲載

2023年4月19日改訂・再掲載

2024年5月7日改訂

 

分類:モクセイ科ヒトツバタゴ属

和名:ヒトツバタゴ(一つ葉田子)

別名:ナンジャモンジャ、ウミテラシ、ナタオラシ、ミズイシ

学名:Chionanthus retusu

分布:日本(愛知県北部・岐阜県東濃地方、長崎県対馬)、朝鮮半島、台湾、中国中南部

樹高:10~20m 直径:70cm 落葉高木 陽樹

 

日本では本州中部の木曽川・庄内川流域と長崎県対馬に隔離分布する。本州中部では丘陵・低山の岩塊地や河川際などの岩場、対馬では海岸の崖地に自生する。大陸要素の遺存分布と考えられており、最終氷期以前には少なくとも近畿と関東にも分布していたといわれる(※①)。

本種は環境省レッドリストの絶滅危惧Ⅱ類に指定されている。本州中部の現存野生個体数は200株以下で、その殆どが単木である。雄株だけでは繁殖不能であり、現存個体が寿命を迎えればその後の存続は極めて危うい。対馬では約3000株が生育している(※②③)。

 

葉は対生し、長楕円形~広卵形、長さ4~10cm。中国では若葉を茶の代用として用いた。ヒトツバタゴの「タゴ」とはトネリコの方言である。和名はトネリコが羽状複葉であるのに対し、本種は単葉であることに由来する。

 

花期は4~5月で、本年枝の枝先に円錐花序を出し、白い花を多数つける。花の見頃は10日ほどである。属名の「Chionanthus」は、chion(雪の)とanthos(花)の合成語である。雌雄異株と記載されることが多いが、厳密には雄性花をつける株と両性花をつける株があり、雌性花だけの株はない。

対馬ではヒトツバタゴの花の影が海面を白く染めることから、ウミテラシとも呼ばれている。

 

果実は核果で両性株につく。10月に黒く熟し、鳥によって種子が運ばれる。発芽は翌々年の春になる。

 

樹皮は灰褐色で、コルク層が発達する。陽樹だが、生長は遅い。

別名のナタオラシは、材が硬く、鉈も折れてしまうという意味である。また、海中に枝を入れると青く輝くため、対馬ではミズイシとも呼ばれている。

 

庭木・公園樹・街路樹として植栽される。愛知・岐阜県にはヒトツバタゴの植栽が多く、ゴールデンウイークの時期になると雪を被ったような光景が見られる。

東海の個体と対馬の個体では、葉・花・実の大きさや形が少しずつ異なっており、遺伝的相違も指摘されている(※④)。自生木の周囲に産地のわからないヒトツバタゴを植栽していることもあるが、地域集団ごとに遺伝的内容が異なるため、このような混植は遺伝的攪乱を引き起こす。

東京都・明治神宮外苑の六道木(3代目)。別名の「ナンジャモンジャ」とは、珍しくて見慣れない樹木に対する俗称である(地域によって指す樹木が異なる)。幕末(1860年代)の頃、青山の六道の辻(現:明治神宮外苑のテニスクラブ付近)の近くの民家に六道木と呼ばれた大木があった。美しい花を咲かせる事で有名だったが、名が知られていなかった。「何の木じゃ?(何という物ぢゃ?)」などと呼ばれているうちに、いつの間にか「なんじゃもんじゃ?」という名前になったという(※⑤)。

かつては明治神宮外苑でヒトツバタゴの苗木が配布されており(※⑥)、関東・静岡県には当地由来のヒトツバタゴが各地に点在する。

 

【国指定天然記念物】

・愛知県犬山市・池野のヒトツバタゴ自生地

ここでは例外的に、砂礫質の緩傾斜地に生育している。7本の自生株があり、樹高15~18m・樹齢200~300年といわれる。7本の幼樹も育っており、天然更新が見られる貴重な場所である。ヒトツバタゴは、尾張(愛知県)の本草学者である水谷豊文(1779~1833年)によって、江戸時代末にこの地で発見されたという。

・岐阜県土岐市・白山神社のハナノキおよびヒトツバタゴ

ハナノキとヒトツバタゴが共生する希少な場所である。かつて自生していたハナノキは2007年に枯死したが、2022年3月にそのハナノキのクローン個体が植栽された。ヒトツバタゴは樹高12~15mで、樹齢100年以上と推定される個体の他、実生更新した複数の個体も群生している。

・岐阜県瑞浪市・釜戸のヒトツバタゴ自生地

神明神社の社叢に3本の成木が自生し、写真の個体は樹齢150年以上・幹周150cm以上。根元からは清らかな湧水が湧いている。

・岐阜県中津川市・長瀞のヒトツバタゴ自生地

和田川の右岸に樹高13m・目通周囲1.4m・枝張り約10m・樹齢100年以上の個体が1本生育する。かつては和田川沿いに数本の自生木があった。花期は犬山や釜戸より約1週間遅い。中津川市蛭川には22本の自生個体が存在する。

 

【都道府県別保全状況】

・長野県:絶滅危惧ⅠA類(CR)。2014年。

旧木曽郡山口村の馬籠に自生がある(※⑦⑧)が、この地は2005年に岐阜県中津川市に編入合併されている。中津川市指定天然記念物の「馬籠のヒトツバタゴ」は、旧山口村指定天然記念物である。大桑村・大桑発電所上にもあるが、この木は昔村人が開田高原から運んで植えたと伝えられる(※⑨)。

・愛知県:絶滅危惧ⅠB類(EN)。2015年。

犬山・瀬戸市に自生地がある。瀬戸市では下半田川町に1株(雄株)あるのみである。かつては瀬戸市内田町にも1株(両性株)あったが、開発により瀬戸市野外活動センターに移植された。

・岐阜県:絶滅危惧Ⅱ類(VU)。2014年。

中津川・恵那・瑞浪・可児・土岐市、御嵩町に自生地がある。中津川市馬篭(海抜600m)が東海地方における分布の北限とされており、ここでは6月上旬に開花する。

・長崎県:準絶滅危惧(NT)。2016年度。

対馬市上対馬町鰐浦に自生している。長崎県対馬市と岐阜県中津川市は、共にヒトツバタゴ自生地という縁で姉妹都市縁組を締結している。

 

【近縁種】

和名:アメリカヒトツバタゴ

学名:Chionanthus virginicus

分布:北アメリカ東部

樹高:4~12m 直径:20cm 落葉小高木

北アメリカ東部の湿潤林や水辺に自生する。レッドオーク類・ユリノキ・シナノキ属・ヌマミズキ属などと混生している。

葉は長さ10~20cm、楕円形で全縁、先端は細く尖る。

花は5~6月。前年枝から下垂する長さ15㎝ほどの円錐花序に白い花をつける。花期はヒトツバタゴよりも1週間ほど遅い。

「ヒトツバタゴ・チャイナスノー」は、アメリカヒトツバタゴの品種である。ヒトツバタゴと違って矮性で花付きが良い。

 

【関連リンク】 

 

〈参考資料など〉

①川尻秀樹 「読む」植物図鑑 全国林業改良普及協会

②‎矢原徹一・藤井伸二・伊藤元己・海老原淳・永田芳男 絶滅危惧植物図鑑 レッドデータプランツ 増補改訂新版 山と溪谷社 2015年

東濃地域の希少樹種の保全

④太田敬久 なんじゃもんじゃの話 化学と生物

鴻神社ホームページ

⑥埼玉県幸手市民家の方からの情報による

旧山口村の植物

まごめ自然植物園

⑨木曽路 古木を訪ねて

中津川市ホームページ

対馬全カタログ